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約束。 1

 「ここは過去形じゃなくて過去分詞形になる…」
 先生の声をじっと聞き、そして黒板を指差す先生から視線を外せない。
 頑張って頑張って…これ以上ない位勉強を頑張ってようやく望んだ高校に入る事が出来た。
 「じゃあここから…高宮…」

 …高宮、なんて…なんでそんな呼び方するのかな…。

 「高宮 日和(ひより)…いないのか?」
 「え!あ、あ…はいっ」
 ぼうっと先生に見惚れてたら自分が呼ばれていたのに慌てて日和が立ち上がると周りからくすくす笑われる。
 じっと先生も日和を見ていてかっと顔が赤くなってきた。
 「続きから読んで」
 「あ、は、はい…」
 日和は小さく消えそうな自信のない声で教科書の続きを読み始めた。

 「はい、そこまで。次、戸田」
 「はい」
 後ろの席の戸田が呼ばれたので日和はそそくさと席に座る。
 ぼうっとして先生に見惚れて呼ばれたのにも気づかないなんて…。
 違う…先生が高宮、なんて呼ぶからだ。
 …約束したのに。きっともう忘れているんだ。

 ううん…覚えていたってまさか本気にしてるはずないだろ。
 ……もうきっと覚えてなんかないとは思うけど。
 約束の事だけじゃなくて日和の事なんかもう全部忘れたのかな…?
 そんな事はないはず、と小さく日和は頭を振ってそしてそっとまた教壇に立つ先生に視線を向けた。
 でも先生の視線は日和を見てはくれない。
 ただの一般の普通の生徒のようだ。

 …今は確かにそうかもしれない。

 小さい頃は違ったのに。もっと近かった。皆の先生じゃなくて隣のお兄ちゃんだったのに。
 大学も県外に行っちゃってずっと会えなくて、それがこっちに戻ってきたって聞いて、また会えると思っていたのに一人暮らしを始めて全然家には戻ってこないでやっぱり会えなかった。
 高校の先生になったと聞いて頑張って無理してやっと入った学校で、毎日会えるようにはなったけど、本当にただ会えるだけ。

 先生から話しかけられる事もないし日和からも話しかけられない。
 だって…先生は日和から話しかけられたくないのか視線も滅多に合わせてもくれないんだ。
 会えなかった時期から比べたら毎日会えるだけでも、顔を見られるだけでもいいのかもしれない。
 でも会えるのに話も出来ないっていうのが悲しすぎる。

 なんで人って欲張りになってしまうんだろう。
 最初は会えるだけで顔を見られるだけでもいいと思っていたのに今は日和を見て欲しいと思ってしまうようになっていた。
 でも今日は名前を呼んでもらえた…。
 ぼけっとしてたら日和って…名前まで呼んでくれた。
 背の高いカッコイイ先生をじっと見つめる。
 眺める事しか今は出来ないなんて。あの人が小さい頃隣に住んでて日和の面倒見ててくれたなんて嘘みたいだ。

 別の人みたいな感じ。
 そう、学校の教室にいるのは月村 瑛貴先生で、日和が好きなのは隣の家のおにいちゃんだ。
 …でも一緒の人。
 一緒の人なのに、今は日和の事なんて知らん顔だ。
 名前だって高宮って…。そんな風になんて呼ばれた事なかったのに。
 …とはいってもまさか学校でおにいちゃん、と呼ぶわけにもいかないし、日和の事だって前みたいに呼んだらおかしいのは分かってる。

 分かってるけど…寂しい。
 ひより、ひよ、ひぃ…一番多かったのはひよ、だ…。
 なんか雛みたいな感じだったけど、それでも呼ばれるのが嬉しくていっつもくっ付いてた。
 幼稚園や小学校終わってお兄ちゃんが帰ってくるのを楽しみにしていた。
 近所に小さい同じ位の年の子供がいなくて、いつも一緒にいるのはおにいちゃんとばっかりだった。

 今考えれば、先生がちょうど今の自分と同じ位の年だ。
 よくも小さい訳わかんない子供の相手をしてくれてた、と自分が同じ年の頃になって初めて気づいた。
 自分が今、幼稚園や小学校の子の相手しろと言われてもはっきり言って困る。
 日和は活発なほうではなくうるさいわけではなかったと思うけれど、小さい子供は遊び相手にはならないだろう。

 …小さい頃に日和が付きまとっていたのがよほどウザかったのだろうか?
 だからもう日和に近づいてきてほしくなくて知らん振りするのかな…?

 引っ込み思案でどうしても自分から話しかけたりするのが苦手な日和は先生の所に行けない。
 小さい時はおにいちゃんにだけは平気だったのに…今はとくに先生、お兄ちゃんのところには行けない。
 もし行ってお前なんか知らないとか、話したくないとか言われたら…。
 そんな事言われるならただ眺めているだけでいい。
 そう思うのに…それなのに…毎日顔を見てるともっと近くにいたいという欲も出てきてしまうんだ…。

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続きに拍手コメお返事です^^

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