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副会長はいじっぱり 1

1 如(YUKI)


 「ゆきちゃん」
 「あつし!またいじめられたのか?」
 泣きながら隣の幼馴染のあつしが抱きついてくる。
 

 小さい頃の敦は可愛かった。
 けれど、可愛かったのは中学入った頃までだ。
 色素の薄い髪は茶色。子供の頃は特に色が薄くてそれで同級生によく苛められていた。
 身体も小さかったから余計にだ。
 それを庇うのが自分の役目だったはずなのに、中学に入った頃からぐんと隣の家の幼馴染、柏木 敦(かしわぎ あつし)の身長が伸びだすと可愛い敦はいなくなった。
 あげくのはてにあっという間に1コ上の自分、二宮 如(にのみや ゆき)の身長を追い抜かしていく。
 すると苛められていた敦はいなくなってかっこいい敦が出来上がってしまった。
 

 小さい頃から女みてーとか言われて苛められていたのがモデル張りの整った容姿になってしまってあっという間に周りの態度が変わっていったのだ。
 もう敦が泣きついてくる事なんてなくなった。
 それでも毎日のように敦は如の部屋に来る。
 

 「ゆきちゃん」
 低くなった声。如よりも15センチも高くなった頭。
 可愛いかった敦はどこいったのか。
 「敦。邪魔」
 夜になると隣の家の窓から伝って如の部屋に敦は渡ってくる。
 いつも互いの部屋の窓の鍵は締まっていない。
 敦は勉強していた如の後ろから椅子ごと抱きついてくる。
 「お前も受験だろ?どこ受けるんだ?」
 「え?如ちゃんとこに決まってるだろ」
 「はぁ?まじで…!?」
 勘弁してほしい。
 可愛い敦ならいいけど、こんな大きく育った敦に懐かれてもどうも困る。
 「当たり前だろ。如ちゃんが心配で心配で」
 「はぁ!?俺の何が?」
 敦の言っている事の意味がわかんねぇ。
 如はずり下がってきた眼鏡を治しながら椅子を回転させて敦を見た。
 
 
 でかい。
 見てからはぁ、と思い切りため息を吐き出した。
 「…いいけど、学校、もしウチに入るなら俺とは知らん振りしろよ」
 「え?なんで?」
 「もし、万が一学校でゆきちゃんなんて呼ばれたらどうするんだよ」
 「……呼ばないから」
 「無理。それに別にお前はもう俺いなくても大丈夫だろ?」
 「………全然大丈夫じゃないよ。ゆきちゃん」
 小さい頃から抱きついていたからか身長がでかくなっても敦はよく抱きついてくる。
 まったく!人よりも勝手に大きくなって!
 「ま、ウチに入れたらの話だけど…ってお前頭はいいんだよな」
 「まぁね」
 不遜に敦が笑う。
 その顔はもう可愛くない。
 今の顔だって女子からきゃーっ!て悲鳴が上がるくらいの顔だ。…きっと。
 見慣れてる如でさえちょっとは目を惹かれるんだから。


 「男子校なのにいいのか?」
 共学にいけば敦はもて放題だろうに。
 「……男子校だから行かなきゃねぇんだよ」
 「はい??」
 やっぱり敦の言っている事の意味が分からない。
 「ゆきちゃん守らねぇと」
 守るぅ?守ってきたのは俺のほうだろうが。
 「はぁ?……敦?何言ってんだ?意味わかんねぇぞ?」
 「………ゆきちゃん無自覚だから」
 「何が?」
 「何でもない。とにかく俺はゆきちゃんと同じとこいく」
 「…あっそ」
 如はくるりと椅子を回して机に向かうように戻した。
 

 まったく背が大きくなっても行動は小さい頃から変わらない。
 「……1コの差がでかいよな…。何時までたってもゆきちゃんは先歩いてる」
 「当たり前だ」
 「ゆきちゃん」
 冷たいよ…、と敦がまた如の背中に抱きついてくる。
 「ねぇ、高校決まったらゆきちゃんに言いたい事あんだけど?」
 「ああ?なんだよ?別に今でもいいだろ。こんな毎日毎日来てんのに何言ってんの?」
 「いいの!だから高校決まったら!って言ってんのに!」
 「あっそ。別にどうでもいいけど…」
 「…ゆきちゃんほんと冷たい」
 だってどうしていいか分かんねぇんだもん。可愛い敦だったらいくらでもわかるけど、自分よりでかい敦なんて。
 「はいはい。俺は勉強で忙しいからお前も部屋戻って自分の勉強すれば?」
 「別にしなくて受かる」
 「………嫌味なやつ」
 小さくて可愛い敦は頭もよかった。それは分かってたけど、背も高くなった敦はもうどこも如が必要には見えない。
 子守から開放されたんだからいいじゃねぇか。
 そう思いながらもなんとなく物寂しい気持ちだった。
 もう敦が人に劣るところなどどこもなかった。
 
 

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