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熱視線 即興曲~アンブロンプチュ~1

 何がどうしてどうなってこうなったのか。
 明羅はだらだらと冷や汗が流れた。
  
 車の助手席に乗せられていた。
 車を運転しているのは何度盗み見ても二階堂 怜だ。その人は信号待ちで車を止めるとハンドルに手を置いたまま明羅にまっすぐ視線を向けた。
 「名前は?」
 「………明羅」
 桐生はまずいかもと名だけを告げる。
 本物?
 人攫い?
 BMWの大きい車。明羅は車にも興味はないので車種なんて知らない。そのエンブレムを知っているだけだ。
 でも高価そうな車であるのは確かでその乗り心地はいい。
 「字は?」
 「…明るいに羅列の羅…」
 信号が青になり車がスムーズに発進する。
 
 じっと明羅は二階堂を見た。
 「………本当に…本物…?二階堂 怜…さん?」
 明羅が呟くと二階堂が呆れたように明羅に視線を向けてきた。
 「……じゃなきゃお前はここにいないだろう?」
 「…何故?」
 「何故?お前が聞くのか?毎年俺のコンサートに来るファンじゃないのか?」
 毎年…っていう事は明羅に気付いていた?
 客席にいる自分を?
 「ファン……なのか、な…?」
 明羅は首を捻った。
 ファン、というのとは違うと思う。
 あれはもう一人の自分を見に行っていたのだ。
 「…なんだ、違うのか?」
 二階堂は怪訝そうに明羅を見た。
 「毎年…って…見えてた、のか?」
 明羅は二階堂を見た。黒い切れ長の目が面白そうな笑みを浮べて明羅を見ていた。
 「見えるさ。小さい子が必死な顔で一人で座ってりゃ目立つ。しかも招待席。それが毎年だ」 
 言われて見れば確かに。
 演奏が終わればピアノの脇に立って挨拶する。見えてたって不思議はない。
 明羅は顔を伏せた。

 「ど、どこに行く…んです、か?」
 「俺の家」
 家!?
 「ど、どうして…?」
 「…帰る所がないって言ったのはお前だろ?」
 初対面で、いや正確には10年越しだが、話すのは初めてだ、それでお前呼ばわりされているがもうそんな事など明羅にはどうでもよかった。
 プライベートなど全然知らないのに家。
 明羅はくらくらと眩暈がしてきそうだった。
 「そんな身元も分からないような俺みたいなの…連れて行って、なんていいの…?」
 「ん~。さすがにお持ち帰りはしたことがなかったが…」
 二階堂 怜は明羅をちろりと見た。
 「俺もずっと気になっていたから、かな…10年だろう?」
 しっかり明羅が10年通っていた事は分かっているらしい。
 「帰る所がないってのは嘘だろう?夏休みか?」
 「…そう」
 「ちゃんと連絡いれておけ」
 くっと二階堂 怜が笑った。
 撫で付けてあった髪は今はそうではないし、着ている服の燕尾服ではなくジーンズにTシャツ。全然印象が違いすぎてきっとその辺ですれ違っても二階堂 怜とは気付かないかもしれない。
 それなのにさっきはすぐに気付いた。
 いや、気付いたけど現実と思っていなかった。
 今だって夢ではないのだろうかと明羅は思う位だ。
 
 明羅の言った帰る所がないなんて言葉はやっぱり信じてもいなかったらしい。
 それなのに今、明羅は二階堂 怜の運転する車の助手席に乗ってその人の家に向かっているらしいのだ。
 そして程なく着いたらしいのは閑静な一軒家。
 「えと…家族、は…?」
 明羅は急に他の、たとえば奥さんとかがいたら、と心配になった。
 「誰もいない。ハウスキーパーが週に2、3度来る位だ」
 その返事に明羅はほっとしてまう。
 「別にいたいなら…俺の邪魔にならなければいてもいい。今の所俺はお前の事は気に障る所はないみたいだから」
 「?」
 二階堂が笑いながら言った。
 いつも演奏する二階堂しか見た事がなかったが、笑うと八重歯が見えるのに思わず明羅は大の大人に、明羅よりもずっと背も体格もいい二階堂だが可愛いと思えてしまった。
 車が電動で開いた門をくぐりそして車が通るとまた門が閉まる。
 広い森みたいな庭に平屋の一軒家だった。
 「どうぞ?」
 車をガレージに入れエンジンを止めると二階堂が明羅に車を降りるように促した。
 家の鍵を開けて入る二階堂の後ろについて明羅もいいのかな、と思いつつそっと家に足を踏み入れた。
 広いリビングに鎮座していたのはスタインウェイのフルコン。しかもつや消しだった。
 「…触れないな」
 明羅が呟くと二階堂は目を瞠った。
 
 

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