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僕の好きな人 1

 高橋 譲(ゆづる)は憧れの生徒会長の宮下 匠と一緒に朝登校する生徒の服装のチェックと遅刻者の摘発の為に校門に立っていた。
 真面目な譲は字が上手かった事もあって先生から生徒会の書記にどうだ?と打診を受け、悩んだ末にはい、と頷き、無事当選して1年生で生徒会の仲間入りを果たしたのだ。

 何事にも受身で自分から率先して、という事は皆無だったのに、どうして、といえば宮下会長に憧れていたからだ。
 宮下生徒会長は柔和な印象で優しそうでモデルみたいに背が高く、かっこよくて、それに頭もよくて、剣道もインターハイとかに出る位強くて…こんなに完璧な人っているのだろうかって位にすごい人で高校に入ってすぐに譲は憧れたのだ。

 自分は背も小さいし、引っ込み思案で運動も得意じゃない。
 勉強だけはかろうじて上位にはつけていたけれど、それでもトップというほどではないという中途半端さだ。
 でもだからこそ、自分を変えるのに丁度いい、と生徒会に推薦されたのがいい機会だからと、自分で頷いたのだ。

 宮下生徒会長の事は憧れというより、もう好きなのかもしれない。
 だっていつも気になって仕方ないのだ。
 ちょっと声をかけられただけでも嬉しいし、舞い上がってしまうくらいで、そして今日は譲が生徒会に入って初めての公の場で会長と一緒にお仕事だ。

 大きめのずり下がりそうな眼鏡を直しながらちらと譲は隣に立つ会長を見上げた。
 「ええと、高橋くん?」
 「うあ、わ…は、はいっ」
 会長に声をかけられて譲は声が上擦り、顔が真っ赤になった。

 「…そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?」
 腕につけたぶかぶかの生徒会の腕章もなんかやっぱり自分には似合ってないと思ってしまう。
 「は、はい」
 くすっと会長に笑われて譲はしゅんと小さくなってしまう。

 生徒会に入って初めての仕事で、しかも憧れの会長と一緒なのにどうしても緊張してしまう。
 カリスマ性がすごくて一年生で生徒会長に立候補して当選した人だ。
 ちょっと声をかけられただけでも舞い上がってしまう。

 予鈴が鳴る前で登校のラッシュ。
 生徒会が校門に立っていたからか、ぎりぎりで登校する生徒が足早に校門を挨拶しながら通り過ぎていく中、悠然と歩いてくる目立つ人を見つけた。
 その人は会長とはまた別の意味で有名人だった。

 「天間、ネクタイがだらしない」
 宮下会長が譲の横でその人を恐れもせずに声をかけたのに譲はひゃ!っと肩を竦めた。
 「…うるせぇよ?」
 低い声でその人が会長に向かって睨みを利かせたのにまた譲は震えてしまう。

 会長と同じ位背が高い。
 背が高い二人が顔を突き合わせるようにして立っていた横に自分が立っているのがいたたまれない。
 ちらとその人がなんだこのちんまいの、と言わんばかりの目で譲を見たのに視線が合って譲は慌てて顔を俯けた。

 睨まれたら怖い。
 柔和な印象の会長と違ってこの天間という人は見るからに怖い感じだ。
 黒い髪に鋭い目。
 同じ位の身長でも柔和で優しい感じでモデルのような会長とは違って、見るからに格闘技か喧嘩が趣味といわんばかりの風貌。

 実際この天間という人はそういう噂があった。
 他校の生徒をカツアゲしてるとか、喧嘩で補導された事があるとか…。
 それは噂でしかないのだけれど、譲にしたらそんな人とはお近づきにはなりたくない。
 予鈴が鳴ってその人はふいと会長から離れ、何事もなかったかのように校門を通って行く。

 校舎の方に向かって離れていったのにほう、と小さく安堵の溜息を吐き出して譲は大きな眼鏡を手で直した。
 消極的な自分を治したくはあるけれど、そんな噂のある人とお近づきにはなりたくはない。
 静かに平和に暮らしたいと思うのは普通なはず。
 喧嘩とかそんなのは譲にとったら別世界の話だ。

 貧弱な自分はどちらかといえばカツアゲされる側。
 実際中学校ではイジメというほどではないけれど、イジメの一歩手前みたいな事はされていた。
 でもその時は友達とかもいたし、せいぜいからかわれて馬鹿にされるような事を言われた位だったけど、それでもやっぱり心に傷は残っている。

 そんな自分が譲は嫌いだった。
 だからこそ自分を変えたいのに、本質はなかなか変えるのが難しいと思う。
 だってどうしたって人に対してしり込みしてしまう。
 この人は一体自分をどう思っているのか、どう思うのか、そんな事ばかり気になってしまって思った事を口に出す事も出来ない弱っちい自分が譲は大嫌いだった。
 
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テーマ : 自作BL小説
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