「さすがにちょっと怖い気が…」
着いたのは夜だった。
ナビに住所を入れて一人で運転して車でやってきた。何時間だろう?もう六、七時間か?
ここには小さい頃たった一度来ただけだったが記憶が鮮烈に残っている。
綺麗な広い庭に瀟洒な洋館。
……だったはず。
それがどうみてもお化け屋敷…いや、洋館なのでホラーハウスか?…になっている。夜だから、ではないはずだ。
電気や水道など止めていたものは不動産屋に頼んで繋いでもらっているはずだが…、玄関まで辿り着けるだろうか…?
車を家の前の駐車場に入れ、ぎぎっと錆びた音を鳴らしながら門扉を開ければ途端に薔薇の棘が肌に突き刺さってくる。
「い、て……」
着ていた上着を頭からかぶり、棘を回避しながらどうにか茨の道を通り抜け石畳の上を歩いていく。確かこのまま行けば玄関に着くはずだ。いくら広いといっても迷うほどではない。子供の頃でさえ迷った記憶はないのだ。
しかし、田舎だからか…。
ふと夜の空を見上げると月の光りと星の瞬きが見える。
そして足元を見れば街灯もほとんどないのに月明かりと星の明かりで影が出来、暗いながらもちゃんと周りの景色が見えるのが不思議で仕方がない。
…悪くない。
都会じゃ考えられない事だ。
悪くないが、好き放題に伸びきった木や草のおかげでどうしたってこれは綺麗な洋館ではなくなっているはず。昼の光りでまだ見てはいないが、このいかにも何か出そうなという雰囲気では考えなくとも分かる事だ。
そんな事を思いながらも自分の背丈位ありそうな草などをかき分けたり、踏みしめたり、顔に襲ってくる枝を掃ったりしながらどうにかやっと玄関に到着。
玄関はエントランスで開けているのでさすがにそこまで草が生い茂っているほどではなかったのにほっとした。
鍵を挿し込み、携帯を取り出して電気のスイッチを探し見つけ、カチッとボタンを押せば館全体にぱっと明かりがついた。ついたが、中が埃っぽいのにけほ、と咳が出た。埃っぽいしやはり人も住んでいないので寒々として何か出そうな雰囲気だ。
「…………これ、今日…寝られるのか…?」
思わず考え込んでしまう。
急に思い立って住んでいたマンションも全部売り払って出てきてもう帰る所はない。
「…とりあえずどこかの部屋で寝られそうな所探そう…」
もう10年以上も誰も住んでいなかったんだ。埃が溜まるのも当然だ。明日から業者を頼まないと!それに庭だ!あの伸び放題の木や草をどうにかしないと棘や草で怪我をしそうだ。
…人が入ってこないようにするにはいいか?
いや!いいけど自分の出入りがまず酷いだろう。後はネット回線を早急に引かないといけない。あとは…。
段取りをアレコレと考えながら一つ一つ部屋を確かめていく。小さい時に来た時はもっと大きな洋館でお城みたいだと思ったが、今見るとそうでもなく、普通の家よりもちょっと広いくらいだろうか。
「お…」
二階に上がった奥の部屋でベッド発見。とりあえず今日は寝られればそれで文句はない。ずっと一人で運転してきて疲れたんだ。幸いにもベッドには布がかけられていたので布を外せば埃はそこまで気にならなかった。
こんなに埃が多いんだったら先に管理を任せていた不動産屋に頼んで業者を入れとけばよかった。…いや、そんな時間もなかったか?なにしろ急に決めてやって来たんだ。
ここでの暮らしはどういうものになるのだろうか…。
ほんの少しの期待と不安。
都会の暮らしはもう辟易した。
田舎でゆっくりと…なんて、まるで年老いた老人のような考えに自分で苦笑し、そしてそっと服を着たままベッドに寝そべった。
「疲れた…」
全部に。今はさしあたり長時間の車の運転に疲れた、が今は一番だが、当てはまるのはそれだけじゃない。もう自分は向こうでの生活の全てを放棄してきた。今自分にあるのはここの洋館だけだ。…でもそれでいい。何も自分には必要ない。いらないからこそ放棄してきたのだから。
疲れた身体が眠いと訴える。それなのに疲れすぎたのか、身体は眠いのに頭の中は冴えきっていた。
明日は掃除の業者、ネットを繋げる業者、どこか造園業者、ベッドや電化製品の買い物、……引越し業者に頼んだ荷物がつくのは明後日だが…あの茨の道は通れるだろうか…?ああ、役所にも行かないと…。
……まぁいい、明日考えよう。
やっと頭の中も眠る事に賛成したらしい。意識が遠のいていった。
着の身着のまま。まるで侵入者みたいだが仕方ない…。
風呂場とかまだ見てなかった…と思考をやめようとする頭の中でふっと思った。
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続きに拍手コメお返事です^^
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