どうにかやっと学校に着く。いつも疲れるのは朝の込み合った電車だ。それさえ過ぎれば帰りの電車は朝よりも比較的すいているし気をつければずっと人と接触する事は少ない。
「おはよう」
誰にというわけでもなく小さく挨拶して教室に入り、クラスの自分の席についた。
学校は共学で結構レベルの高い進学校だ。クラスでも唯は一人でいる事が多い。少しはクラスメイトと話す時もあるが自分からは滅多に進んで話しかけたりはしない。
それでいいんだ。
仲良くなって接触したら聞かなくていい声も聞こえてしまうんだから。
クラスメイトがクラスでも浮いているような自分の事をどう思っているのか唯は知らない。でもそれでいいんだ。
GW明けだけど休みなんてなかったように6時限まである授業を終え教科書を鞄にしまうと掃除当番もないので唯はすぐに学校を出た。
勿論部活なんかにも入っていない。とにかく人と交わらないように、変な事を言って気づかれないようにするにはそれが一番なんだ。
家に帰っても何をするわけでもない。自分の部屋に引きこもっているだけ。両親は仕事でいないし家から出なければ誰とも接触する事もない。一番自分の部屋に閉じこもっているのが安心なんだ。
自分も。親も。
帰りの電車は思ったより混んでいた。学校の終わる時間は夕方にもまだ早い時間なのに朝とまではいわないけれど人とぶつかる位には混雑していた。
いやだなぁ…と思いつつ出入り口で手すりに掴まった。
次の駅に停車すればまた人がどおっと乗ってきた。どうして平日の日中なのにこんなに混んでいるのだろう?
手すりに掴まってなるべく人との接触を少なめにと思ったのに乗り込んできた人に押されて手すりから離れてしまった。
どうせ唯が降りる駅で人がみんな降りるだろうと思いそこまでは我慢するしかない。
〝疲れた〟
〝混んでるなぁ〟
唯の体に触れてる人の思ってる事が流れ込んでくる。
はぁ、と小さく溜息を吐き出してから車内にぶら下がっている広告に目を向けた。自分の意識をそらせようとしての事だった。
週刊誌の広告がぶら下がっていて今朝のニュースでもやっていた殺人事件の見出しが書かれていた。
そういえば事件があったのはこの電車の沿線の近くだったな…と唯は自分とは全然別世界の事だ、と思いつつ見ていた。
〝ああ…俺のした事か。誰も俺がした事だなんて思ってもないだろう。証拠も何もない。警察なんてホント馬鹿だな〟
くっくっと笑い声までが唯にははっきりと聞こえてきた。
……え?…何…?どういう事…?
聞こえてきた声にどきどきと唯の心臓が嫌な音をたてはじめた。
〝凶器も埋めたしな!まだ見つからないなんて〟
思わず唯はぱっと後ろを振り返った。
混んできた電車で触れるようにして唯の後ろに立っていたのはサラリーマンだろうか?スーツを着た優しそうな雰囲気の人だった。
この人…?
「どうか?」
唯と目が合ってその人が声をかけてきた。
「あ、あの…鞄が…」
「ああ、当たってた?ごめんね」
焦りながら、どきどきしながら唯が小さく訴えると後ろの人が持っていた鞄をずらした。
〝驚いた!一瞬考えてる事でも気づかれたかと思ったじゃないか!はは!まさかそんなわけないのに!〟
やっぱり…後ろの人だったらしい。
どうしたらいいの…?
〝近くの公園、しかも子供が遊んでるその下に埋まってるなんて誰も知らないで遊んでるなんて思いもしないだろう。ざまぁみろ!〟
唯は段々と顔色をなくしていく。
〝今度は誰にしようか…知り合いじゃ足がつくからやっぱりどこかでひっかけて…だな〟
今度は…だなんて…また…する気…?人を…?
どこにも罪悪感も何も感じない。むしろ高々と笑っているような感じだ。
もう一度ちゃんと顔を見て確かめよう。それをしてどうするのか唯は自分でも分からないけど…。
唯は体が震えそうになって力が抜けてくる。
がたんと電車が揺れて唯の体が傾くと後ろの人が唯の肩を支えてくれた。
「あ、あ…りがとう…ございます…」
唯は後ろを振り向いてはっきりと男の顔を見た。
「気分でも悪い?顔色が青いよ?」
人のよさそうな親切な人っぽい。見た目は。でも…。
「酔っちゃった…みたいです…」
〝男子高校生にしては華奢で小さいな。男でも可愛い顔をしている〟
思考が唯の耳に響いてくる。
早く駅に着いて欲しい。キモチワルイ…。
〝でもやっぱりいくら可愛くても男はな…。やっぱヤるなら女だろ〟
ああ…怖い。こんな事知ってしまって唯はどうしたらいいのだろうか。
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