ウサギ
いつも彼はかっこいい。
大学一年生なのだろう。
春からずっと図書館に時間があれば通ってきている。
長い手足、モデルのような体型。髪は金色に近い色。彫りの深い顔立ちはどう見ても外国人だ。
ハーフなのだろうか…?
髪は最初染めていると思ったけれど根元が黒くなっている所は見た事がないから地毛?
でも名前は日本人だ。
都築 獅王。
苗字がつづきと呼ぶのは分かるけど名前はなんて呼ぶのだろう?しおう?しお?
ライオンみたいな名前で、髪も金色っぽくてさらに固めて立てているために本当にライオンの鬣みたいだ。
そして彼は友達からは〝レオ〟と呼ばれているらしい。
あまりにもぴったりだ。
本とノートを前にして大きい手に握られるシャーペンが小さく見える。
いつも真面目に図書館で勉強している姿を盗み見るのが楽しみだった。
でもあくまで彼は観賞用だ。
いつも周りには女の子が群がっている。
勿論ルックスがかっこいいからそりゃあ女の子は彼を放っておくなんて事はしないだろう。
それに彼はストレートだ。
男しか好きになれない自分とは違う人種だ。
それでもたまに受付に並んだときや、ふとした瞬間に見られているのは分かっていた。
分かっていたけれどそれを相手する事はない。
いい加減これまでの事を考えたら諦めもつく。
彼には関わらないで遠くで眺めるだけ。
それが一番だ。
ところがこの日、彼は借りた本を一冊カウンターに忘れていった。別に追いかける必要もない。明日にでもなれば気付いて取りに来るだろう。
それなのに追いかけた。
外に出ると彼はベンチに腰かけて頭を項垂れていた。
髪の色ですぐに彼だと分かる。
忘れた本をただ渡しに行っただけだったのに彼は本を受け取らずに腕を取った。
「好きです。付き合ってください」
何を言われたのか頭がわんわんと回りそうだ。目を見開いて彼をじっと見てしまうと彼も自分を見ていた。
視線が絡み合ってしまう。
「あ、の…?」
何か間違って聞こえたんじゃ?と頭を傾げた。
「すみません!急にこんな事。でもふざけてません。ずっと…あなたの事を見ていました。ずっと…男にこんな事言われて…気持ち悪いかもしれないですけど…」
全然気持ち悪くなんかありません。むしろ自分は男としか付き合えないんです。
…と言いたいところだけどとりあえず今はその言葉を呑み込んでおく。
「あの…本当に…ふざけてませんから…考えて…もらえ…」
「いいよ?」
「え?」
少しの間でもこんな上等の男と付き合えるならこっちだって嬉しい限りだ。
「ねぇ?聞きたかったんだけど、名前なんて呼ぶの?」
「しおう…です」
きょとんとしたまま彼、都築 獅王が答えた。
「あの…俺も聞きたかったんですけど…苗字は穂波さんですよね…?名前は?」
「……言いたくないな」
反対に聞かれて口を閉ざしたくなってしまう。
「え?」
「だってキミはライオンの王だろう?とても似合ってる。そうだな…俺の名前は後でね。ねぇ?今日キミはこれから大学?講義?あとは?」
「え?あ、はい。講義…あります。そのあとはバイト…」
「バイト?どこで?」
矢継ぎ早に質問を繰り出すと獅王は律儀に答える。
「あの、駅前のカフェで…夜八時まで」
「そのあとは?空いてる?」
「…はい」
「じゃあちょうどいい。その時間には俺も仕事が終わるだろうから行くよ。その後付き合って」
「え?あ、はい…」
「じゃ夜にね」
にこりと獅王に笑いかけると獅王は顔を上気させた。
「あの…本当に…?付き合ってってどこかの店とかじゃなくて…」
「分かってるよ?恋人として…って事で…いいんだよね?」
「…はい」
獅王が一瞬目を瞠目させたがすぐにくしゃりと顔を崩壊させた。
かっこいい凛々しい顔が崩れたのを見てくすっと笑ってしまった。
「詳しい事は夜にね?」
じゃ、と仕事を抜け出してきたのですぐに戻る事にするが、獅王はただ呆然とそこにまだ佇んでいた。
今は彼氏もいないしここ最近は遊ぶのもやめていたが…まさか獅王から告白を受けるなんて思ってもみなかったけれどラッキーだ。
面食いの自覚はあるけれど今までで一番カッコイイ彼氏だ。
観賞用でいいと思っていたけれど、向こうから誘われたなら別だ。ただ遊ぶだけでも上等な男なら大歓迎だ、と職場に戻る階段を上る足取りが軽くなった。
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