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太陽と月の欠片 プロローグ

 高校の入学式。
 同じクラスの名前の一覧に知った名前を見つけた。
 杉浦 悠(ゆう)。
 本物!?
 
 永瀬 大海(ひろうみ)は教室で出席番号順に並んだ席を目で数えて視線を追っていく。
 杉浦だったら顔を自分は分かるはず、なのに全然気付かなかった。
 「ぁ……」
 小さく声を上げた。
 いた。
 身長は175近くあったはず。でも身体の線は細くて、身長より小さく見えた。周りも大きかったからという事もある。
 髪は真っ黒で艶めいているけどかなり長くなっている。
 前髪も長い。
 そして野暮ったい眼鏡をかけていた。
 「?」
 印象が全然違う。
 バレー部入るならあの髪はないだろう。
 大海の髪は短い。
 当然バレー部に入るつもりだから。 
 …もしかして入らないのか?
 嘘だろう?と内心で訝しむ。
 
 担任が杉浦に話しかけ、前の席の奴に話しかけると杉浦は教卓の前に席を移動した。
 目悪いのか?
 眼鏡かけてるだろ?
 中学校の時はかけてなかったはず。
 どうしたんだろう?
 杉浦の背中はどこか全部を拒絶しているようだった。

 大海が杉浦を知ったのは去年の中3の夏の県大会でだ。
 県大会で対戦した時思わず見惚れた。
 ホールディングぎりぎりと言っていいようなしなやかに反る指から繰り出されるトスに。
 あれを打ってみたいと思った。
 あれなら大海はもっと力をこめてスパイクを打てるはず。
 気持ちよくずどんと決められる。
 そう思った。
 けれどそれは相手チームのセッターで大海のチームのセッターではない。
 それにどんなに歯噛みしたか。
 ネット越しに何度もジャンプしたくなるような見事なトス。
 あれを打ちたい。
 そう思ってた。
 結局その時は話しかけもしなかったけれど、その人が同じ高校、同じクラス?
 見かけは大分違うけど間違いない。

 「なぁ、杉浦 悠?」
 休み時間にぽつんと一人でいた杉浦に近づいた。
 「何……?……永瀬 大海…?」
 杉浦も大海の名前は知っていたらしい。
 「…なんでこんな所に?お前ならもっとバレーの強豪校に行けただろう」
 杉浦が驚いた声を出していた。名簿も見てないし、担任が出席をとったのも、杉浦は何も聞いていなかったらしい。
 「え?だって俺ん家から公立でここ一番近いから。杉浦は学区違うだろ…?わざわざ遠いこっちに?」
 杉浦は顔を顰めた。
 「お前確か北中だろ?北中からこっちにって誰もいねぇんじゃねぇの?」
 「……いないよ」
 「だろ?じゃ、とりあえずよろしく」
 「ああ……、よろしく。………永瀬、俺、バレーはしないから」
 「え!?」
 「だから必要なければ声かけなくていいから」
 ふいと杉浦は大海から視線を外して前を向いた。
 「別にバレーしないからって話しかけちゃだめって事はないだろ?」
 「……ないけど」
 やっぱりバレーはしないつもりなのか。
 もったいない。
 雰囲気的にそんな感じがしたけど、やはりな事にかなり大海はがっくりした。
 しないというのに無理に誘って嫌われては元も子もない。
 とにかく打ち解けてから理由を聞いて、それでもしまたバレーをする気になれば誘えばいい。
 今は見る限り大海の事も拒絶しているのが見て取れる。
 こうなったら持久戦だ。
 どうしたってアレを打ちたい。
 時間がかかってもいい。
 もし杉浦が復活してもあの指ならきっといつでもトス上げられるはず。
 とにかく打ち解けるまでは話題に気をつけよう。
 「じゃ、よろしく」
 大海は席に座ったままの杉浦の顔を覗きこんだ。
 確か女の子達に騒がれる位の整った顔のはずが、今は伸びた前髪と野暮ったい眼鏡で全然そうは見えない。
 それももったいないと思う。
 「眼鏡……別なのにしたら?」
 「………いいんだ、これで」
 杉浦が自嘲の笑みを浮べた。
 「ふぅん。もったいないと思うけど…。俺が杉浦の顔だったら喜んで曝け出すのに」
 「……俺はいらない…」
 ぼそりと他にも何事かも杉浦は呟いたけど大海には聞き取れなかった。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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