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太陽と月の欠片 夏休み8

 なんで楽しい時間は過ぎるのが早いのだろうか?
 杉浦が帰って、母親と弟が帰ってくればもう日常だ。
 そして毎日の部活も始まる。
 ちぇっと舌打ちしたくなってしまう。
 1週間ベッドにいた存在がいなくなってやけに寂しい。
 どうしたって大学になるまでああいう生活は望めそうにない。
 あと2年半。
 「……長すぎる」
 はぁ、と思い切り溜息を吐き出した。
 「大海、ちょっといい?」
 「あ?何」
 ベッドで一人耽っていたら母親に呼ばれた。
 リビングまで移動すると母親が真剣な顔をしていた。
 何言われるのかとドキドキしてしまう。
 まさか杉浦の事、ばれた?
 「あのね、100%じゃないんだけど、お父さんが海外赴任になるかも」
 「はぁ?まじで?いつ?」
 「…来年から2年。そのあとはこっちに戻ってこられるみたいなんだけど」
 「…光輝(こうき)は連れて行くんだろ?俺は残る」
 「………だよねぇ。そう言うとは思ったけどねぇ。ここで一人暮らしして住む?」
 「いいだろ?だってどうせ2年したら帰ってこられるんだろ?俺は東京の方の大学に行くつもりだし。あ、一応バレーで進学すっから」
 マンションは賃貸じゃない。だからこそ父親が単身赴任なのだ。
 「……うん。いいよ。大海の人生だから。…ただ、高校はバレー強豪校選ばせてあげなくてごめんね」
 「全然。感謝してる」
 なにしろここに杉浦がいたんだから。
 「それに頑張ればインターハイ出られるでしょ。べつに強豪校じゃなくたって」
 「………本当お前ってでかいわよねぇ。身体だけじゃなくて。我が息子ながら出来すぎよ。それにこの一週間の生活ぶりもまぁ、感心するわ。どうなってるんだろうと思って帰って来たけど」
 「別になんも変わってねぇだろ?」
 ちゃんと掃除機もかけてたし、洗濯もしてたし。ゴミも出してた。 
 「そうなのよね…。まぁ驚いた。何も出来ないなら一人置いてくなんてできないけど…」
 「一応合格?それに大学いってもどうせ一人暮らしだろうし。それがちょっと早まるだけだろ」
 「まぁねぇ…。とりあえず今すぐではないから」
 「うい~。了解」
 
 晴天霹靂?棚から牡丹餅?
 自分の部屋に戻ってどうしても顔が笑ってしまう。
 仕事の出来る父に感謝!
 うしっ!と思わず小さくガッツポーズ。
 まぁ毎日一緒は無理でもある程度杉浦と一緒にいられるのは可能だろう。
 でもこれがまだ本決まりではないらしいので、杉浦に話すのは後だな。
 大海は浮かれないように、と自分を戒めた。

 
 「うっす」
 「…おはよ」
 駅で杉浦と顔を合わせるのが気恥ずかしい。
 ずっと一緒にいた1週間が夢のように思えてくる。
 「その、身体…大丈夫、か?」
 こそりと杉浦の耳に囁けば仄かに顔を赤くして大丈夫と応える。
 やっぱり可愛い!
 抱きしめたい衝動にかられてしまう。
 ぶんぶんと大海は首を振った。
 
 「あれ?そういやお兄さんは?」
 確か今日から来るとか言ってたはず。
 「うん。今日は直接学校に来るって。連れて来るのセッターの中村選手とアタッカーの大岩選手って言ってたよ」
 「まじで!?うわ!楽しみ」
 全日本の選手を間近で見られるなんて滅多にない事だ。
 もう意識がバレーに向かってしまう。
 
 練習が始まってすぐ位に3人が現れた。
 杉浦のお兄さんはでかいと言ってた通りに大海位でかくて、アタッカーの大岩選手も勿論大きい。セッターの中村選手は大海よりは小さいようだった。
 リーグのコーチをしているお兄さんが練習を見てくれて、そこに全日本の二人が入って一緒に教えてくれたり、と始めは皆緊張してたけど誰もが滅多にない好機に夢中になった。
 お兄さんと杉浦はあんまり似てない。きっとお母さんに似たのが杉浦でお兄さんはお父さんに似たのだろう。
 セッターの渡辺と宙は特に中村選手が付きっ切りで教えてくれてた。
 そこに杉浦も入ってる。
 効率のいい練習方法とか役立ちそうなことも色々教えてもらってさらに練習に熱が籠もりそうだ。

 「な、身体平気なら今日、しないか?」
 大海はネットを親指で指しながら杉浦を誘った。たまに練習後に二人でアタック練習をしていたのだ。練習にはあんまり参加出来ない杉浦もきっと熱にあてられてしたいはず。
 「する」
 こくりと杉浦が頷いたので大海は笑って手を上げるとその手をぱちんと杉浦が合わせた。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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