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熱視線 無伴奏~ア・カペラ~8

 終わった…。
 明羅は何回も何回も音を確かめた。
 第1楽章、第2楽章、第3楽章。
 思ったとおりに出来ている、と達成感が浮かぶ。
 これを怜が気に入ってくれればいいんだけど。
 怜のお気に入りは<ハッピバースデイ>は勿論だけど、ワルツは苦手だといったにもかかわらず<エロワルツ>もらしい。
 再々ヤらしい弾き方でにたにたしながら、明羅の反応を見ながら弾いている。
 もう勝手にしてって感じだ。
 生方が音楽雑誌を持ってきて、そこにコンサートの講評がかかれていた。
 怜の演奏は大絶賛にかかれ、明羅の事まで載っていた。親の事まで書かれていたがそれは仕方ないことで今は両親のおかげで自分があるとも思える。
 両親がいて音に慣れていたからこそ怜の音を探し出せたのだと思えるのだ。
 そうでなければきっとずっと明羅の心の中は枯渇したままだったろうとも思う。


 「怜さん」
 スコアを全部プリントアウトした。
 ピアノの分、オケの分。
 膨大な量になってしまう。
 音は電子音だけどスピーカーから流すようにする。
 「………こりゃまた…」
 怜が束になった紙を見て絶句する。
 「ごめんなさい。紙も使いまくりで」
 「いや、だからどうせ俺は使わないし。それに結局コレは俺の物なんだろうからな」
 怜がとんとんと曲を示す。
 「まぁ、そうだけど。…はい、ピアノの分」
 怜が楽譜を受け取った。
 表題にはピアノ協奏曲としか入れてない。
 「流す、よ…」
 ドキドキする。いつも怜に一番初めに聴いてもらう時は緊張して逃げ出したくなる気分だ。
 でもこれは明羅の中の自分の気持ちを綴ったようなものなのでやっぱり聴いて分かって欲しい、と思ってしまう。
 怜は分かってくれるだろうか?
 受け取ってくれるだろうか?
 前に怜に言われた自分をさらけ出せと言われた言葉がこれを作ったのだ。
 「……おう」


 カウチに並んで座ってスコアを眺めて音を追う。
 電子音だからやっぱり物足りないな、と明羅は苦笑が漏れる。
 第1楽章は短調。始まりはフォルテから。
 だって怜さんのピアノの音は明羅にとって衝撃的なものだったから。
 身体に電気が走ったみたいに衝撃を受けたんだ。
 焦燥感、足りない、助けて、欲しい、そんな明羅の思いの籠もった第1楽章。
 第2楽章は長調でゆっくりの透明感が強調されるようなもの。
 オケのトレモロ、ピアノのトリル。
 怜の綺麗な宝石の様な音が響き渡るような曲。
 でも途中で不安を表すような短調に転調。
 だって、一緒にいられるようになってからだって明羅は最初は不安だったから。
 第3楽章。ロンド形式で主題、転調、装飾を増やして、盛大で壮大なフィナーレ。
 明羅の今の、今までの思いが全部出せたと思う。
 これは怜のためじゃなくて自分のための曲。そして怜に対する返事の曲だ。
 自分で自分に浸っていて怜の反応を見るのを忘れてた、と明羅は曲が終わってから気付いてそっと怜を見た。
 分かってくれるだろうか…?
 怜は口を押さえて楽譜を睨めていた。


 「………怜さん」
 終わったけど、どう…?
 聞きたかったけど声が掠れる。
 「………コレ、お前、だろ」
 うん、そうなんだ。
 やっぱり明羅は泣きたくなってきた。
 だって怜は気付いてくれる。
 「…………」
 怜が仄かに顔を染めている。
 「お前……コレ、俺は恥かしいぞっ」
 「え?」
 ダメ?
 「だめじゃない!がっ!……コレは本来俺が弾くんじゃなくてお前が弾くものだろうがっ」
 ん?と明羅は首を傾げた。
 「……あ、そうだね」
 明羅が怜に対しての思いを綴った曲で、それを本人が弾くって、確かにそうかも、と明羅もあれ?と首を捻った。
 「でもほら、オケのほうが俺でピアノが怜さんな感じ?」
 「……だから、それを俺が…」
 怜さんが顔を赤くしてるのが珍しくて明羅は見入ってしまう。
 「曲はいいんだ!よすぎる!…分かるけど…」
 「だって怜さんさらけ出せって言ったでしょっ」
 段々明羅も恥ずかしくなってきた。
 「言ったけどっ!………すみません。撤回します。もう少し抑えてくれるとありがたいです」
 怜は頭をがりがりと搔きながら言ったのに明羅は噴き出した。
 「コレ、副題決まってるんだ」
 「え?お前が?」
 怜が怪訝そうに見た。それに明羅はむっと口を引き結ぶ。
 どれだけタイトルつけに信用ないんだか。
 「指輪」
 怜が目を見開いた。
 「…お返し、のつもり、なんだけど」
 怜が破顔して明羅を抱きしめた。
 
 

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