52 駿也(SYUNYA) 「五十嵐」
八月朔日が駿也に声をかけて廊下の端に寄せてくれた。
教室の移動の時に八月朔日は気にしすぎるくらい気にする。
泰明が八月朔日に駿也を気をつけて見ていて欲しいと頼んだのと、八月朔日の目の前で階段を落ちてしまったからなのか。
「…そんなに気にしなくても」
「いや。六平さんにも頼まれてるし」
「でもあれ以来別に何もない…」
「何かあったら遅いだろ」
………。
今までこんな風に気にされたのが初めてでどうしても落ち着かない。
「あ…」
廊下で泰明と七海さんが一緒に向こうから歩いてきた。生徒会の事なのか何か話しをしながらだ。
そこがやっぱりちょっと面白くない、と思うけれど泰明からちゃんと言葉をもらっていたのでもう顔を背ける事はしない。
お、と泰明が駿也に気付いて口端を緩めた。
「駿也、どこ行くんだ?」
「音楽室」
駿也はじっと七海さんに睨まれて小さく頭を下げた。
なんで睨まれるんだ…?
そして七海さんの視線が八月朔日をちらりと見た。
あんまり七海さんが人を気にするってなかったはず…。
「た、泰明っ」
「ん?」
駿也は泰明の腕にしがみついた。
「なんだ?」
なんでもないんだけど、もしかして七海さんって…。
ちらりと七海さんを見るとじっと駿也をまた見ていた。
先週までは駿也の事など見えてなかったような態度だったのに。
「…五十嵐くん」
その七海さんが始めて駿也に話しかけてきた。
「は、はい?」
「君は六平が好きなの?」
「そ、そうですっ!……けど…?」
「ふぅん」
七海さんが駿也に興味を失ったように呟いた。
…というか、なんで皆普通に好きとか言えるんだ?
言えない駿也の方がおかしいのか?
思わず眉間に皺を寄せて泰明を見上げると、その泰明は嬉しそうにしながらも笑っていた。
「五十嵐、遅れるぞ」
「あ、うんっ。じゃね、泰明っ」
八月朔日に声をかけられて駿也が頷き駿也が泰明から離れ、八月朔日が二人に小さく礼をして一緒に急ぎ足で廊下を歩いていく。
それにしても…。
「八月朔日って…ほんとに七海さんが好きなの?」
全然七海さんに会っても嬉しそうな顔とかしないでいつも表情が変わらないと思うんだけど。
駿也は泰明に会えれば嬉しい、と思うんだけど。
「好きだ」
少し目を伏せながらも八月朔日がはっきりそう言ったのに駿也の方が照れてしまう。
「そ、そう、なんだ…」
「ああ」
そして柔らかな表情を浮べる八月朔日に駿也までなんとなく嬉しくなってくる。
「……友達、って…こんな感じなのかなぁ?」
「は?」
八月朔日が驚いた顔をして駿也を見ていた。
「俺、友達とかっていなかったから…」
すると八月朔日が駿也の頭をくしゃっと撫でた。
「もう、ダチ、だろ」
そうなんだ…。
後で泰明に話しよう!
駿也は思わず笑顔が浮かんだ。
「あ、あのね!…好きって言った方がいいって、俺、言われて…。だから八月朔日も言った方が…」
「え~?七海さんだぞ?」
こそこそと小さい声で会話する。
「う…」
確かに…。
七海さんはちょっと何考えているか分からない。
「……八月朔日はなんで七海さん好きになったの…?」
そもそも七海さんが誰かに話しかけてるなんて滅多に見ないのに。
「え?」
八月朔日がちょっと慌てる。
「だって、七海さんって泰明以外とあんまり話してるとことか見ないけど…」
「…そうなんだよな…。だから七海さんは六平さんとかなって思ってて、俺はただ別に見てるだけでいいかな、と思ってたんだけど。でも六平さんは五十嵐を大事そうにしてたから、あれ?って」
大事そう!?
かっと駿也が顔を赤くすると八月朔日が笑った。
「だってあの階段から落ちたときなんか、俺、六平さんに押しのけられてさっさと五十嵐抱っこして行っちゃうし?」
「そ、そう?」
「だよ。だからんん?って…。…でも七海さんは六平さんの事好きなのかなぁ?」
「……違うと思う」
だってさっき駿也が泰明の腕にしがみついた時七海さんは普通だった。
普通じゃなかったのは八月朔日と一緒にいた時の方だ。
じっと駿也は八月朔日を見上げた。
「……八月朔日、身長高いよね」
「あ?一応。187ある」
「でか」
「…五十嵐はちっさいな」
泰明にも小さいって言われるけど。
思わずむっとしてしまう。
「八月朔日はでかすぎ」
「でかくないと困る」
高跳びの選手だとしたらそうだろうけど。
一応駿也だって男なんだから…。
でもデカかったら泰明は可愛いって言ってくれないかも……。
ちょっと複雑な気持ちになってしまう。
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みらいさんからイラストいただきました~
サムネイルになっているので画面クリックで大きくなります~^^
ありがとうございます~~~~(T-T)
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