54 駿也(SYUNYA) 日曜日は駿也の異母兄、裕也と泰明の姉、由梨の結婚式がある。
それが終わって2週間もすれば夏休みだ。
今まで夏休みといってもどこに出かける事もなくいつでも家で静かに時間が過ぎるのを待つだけだった。
それがきっと今年は違う。
泰明が動物園にも連れて行ってくれると言ってた。
そして夏休みも遊びに連れて行ってくれるって。
考えただけでもどきどきしてしまう。
だってそんなの初めてだから。
でもずっと一緒だった先週に比べて泰明は今週は駿也の家にも入らないで帰っていく。
月曜日に思わず好きと確認しあって、してくれないと思ってたのに、そうじゃなくて、そのまま駿也の部屋で最後までしたのに…。
次の日は泰明の家に行ってキスしたりしたのに。
そこまで、だった。
あとはもう泰明は駿也の家まで送ってきてくれるけど、中に入りもしないで帰っていく。
…なんで?
駿也はいつでも泰明と一緒にいたいと思ってるのに、泰明はそうじゃない?
七海さんは多分、八月朔日の事が気になっているんだと思う。
それが分かって余計に駿也は安心したのに、肝心の泰明が素っ気無い気がする。
一緒にいてくれると言ったのに…。
それでも泰明はいつでも駿也の事を気にしてくれてはいるのは分かる。
分かるけど、じゃあどうして?
どうして…。
よくなかった、のかな…?
それともやっぱり駿也が初めてじゃなかったから…?
初めてにしとけ、って言ったのは泰明なのに…。
「駿也どうした?」
「え?あ、何…?」
もう金曜日で学校は終わり。
その帰り道だけど…。
電車から降りて駿也の家に向っている。
でも泰明はいつも通りに駿也を送ってくれるだけ…?
「…泰明…」
駿也は俯いて泰明の制服の裾を引っ張った。
「今日も…帰っちゃう…?」
ずっと泰明の家にいられた時は安心しきっていたのに、今の方が不安な気がする。
だってキスもしてないのに…。
「泰明…ヤ…だった、んだ…?…俺、が…初めて、じゃない、から…?」
泰明に聞こえるか聞こえないか位の小さい声で呟いた。
なんでかな?
好き、って言って好きだって言われたはずなのに、その前より不安でその前よりキスも少ないって…。
やっぱり嫌だったんだとしか思えなくなる。
それなのに泰明は優しいまま。
「は?…駿也?」
「……いい。…なんでもない」
自分がこんな事言うのもそもそも間違っているのだろう。
自分の我儘なんだ…。
「駿也」
泰明が駿也の腕を掴んだ。
「な、なに…?」
でも泰明は駿也を見ただけで何も言わなくて、駿也の腕をつかんだまま歩く。
「泰明…?」
ずんずんと進む泰明に足の長さが違う駿也が早歩きでついていく。
家に着いて駿也が鍵を開けるときも泰明は駿也を離さなくて、もしかして今日は一緒にいてくれる?と駿也は嬉しくなった。
けれど泰明は無言。
どうしたのかな…?
「う、わっ!」
家に入って靴を脱いだら泰明が駿也を担ぎ上げて階段を上っていく。
勿論泰明はもう何回も来てるし、駿也の部屋も知ってるからいいけど。
「泰明っ?」
それにしてもどうしたんだろう?
泰明は駿也を部屋に運んでそしてベッドに横にした。
「泰明?…んっ」
キス。
ずっとしてなかったのに…。
食べられそうな勢いで泰明が駿也の口腔を嬲ってくる。
「ぁっ…」
舌が絡まり合う湿った音が部屋に響くのに、それだけで駿也も感じてしまう。
だって泰明が夢中で駿也を貪ってるんだ。
嫌なんじゃなかった、と思えれば嬉しいという気持ちしか出てこない。
その泰明の手が急いたように駿也の制服を脱がしていく。
「泰明っ…?」
唇が離れた瞬間に名前を呼んだけれど、泰明にすぐにまた唇を塞がれてしまう。
えっちもヤだったわけじゃない…?
いつも余裕に見える泰明が全然余裕がなさそうだ。
駿也をみるみるうちに服を剥いでいくと自分も脱いでいく。
泰明の口は駿也の首をかむように口づけ、身体中を這っていく。
「や…汗かいてるし…汚い…」
「汚くない…駿也は綺麗だ…」
泰明がそう思ってくれているのが嬉しくて首にしがみつく。
「た、いめい…っ。あ、ぁ…っ」
すぐに泰明の指が後ろに伸びてきて駿也の中に忍んでくる。
性急だけれど、でも泰明は無理に身体を進めて来る事はないんだ。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学