「………尚?一体何なんだ?」
「え?何が?」
べったりと遥冬に張りつくように…それこそストーカーのごとく遥冬の後ろを追いかけている自覚はある。
遥冬のマンションで西川の傘を見てからどうにも気が気じゃない。
「……心配なんです」
「…………………」
ひやりと遥冬の周囲の気温が下がった。
やばいか…?
信用してないと言わんばかりで怒らせたか…?
50’Sの開店準備の為に働く遥冬の顔が能面のような表情を張りつけて尚をちろりと睨んだ。
その時遥冬の携帯がなって遥冬が携帯を手に取った。
珍しい…。遥冬の携帯にメール?
するとメールを見て遥冬が仄かに笑みを浮かべ、ふっと表情を崩した。
なんだ…?
誰からのメールだ?
「……誰?」
「ああ、西川」
またそいつ!?しかもメール!?なんで!?
「今日傘取りに来るって。尚、今日は帰って?」
「…………は?…なんで?……俺がいちゃわりぃのか?」
「うん。ダメ」
にっこりと遥冬が笑みを浮べる。
「仕事も邪魔。じゃあね?」
バイバイ、と遥冬に手を振られて尚は愕然とする。
なんだ、それ…。
「………いいよ、わかった!じゃあ帰る!」
「うん。じゃまた明日」
不貞腐れて尚が強めに声を上げてもいたってあっさりと遥冬はそう返し、仕事に戻る。その顔は尚と違って満足そうだ。
何で…?
「…………」
張り付いてたってこうして遥冬から帰ってと言われるんじゃ意味ないだろ。
もう自分はいらない…のか?
ウザかった…か?
いや、確かにどこでも常に一緒にいるのはウザイとは自分でも思う。
でも遥冬はそうは思っていないと思ってたのに…違うのか?
邪魔、なんて言われるんじゃ……。
今までは何してたってそんな事言われた事なかったのに。
大学でべたべたしててもやめろ、と言いつつもそれは拒絶じゃなかったのに、今日のは明らかに違う。
メールに笑顔浮かべて恋人であるはずの自分を追い返して他のヤローをあの部屋に入れる?
尚はがっくりと落ち込んだ気分のまま50’を出て近くにある酒屋に向かった。
「岳斗~~~~!!!」
そこでバイトしてる岳斗に助けを求め、泣きつくように抱きついた。
「何?どうしたの?」
「遥冬に追い返された…」
「あはははは~!尚先輩ウザイから!」
この野朗!
傷心をさらにえぐってくるのに岳斗のデコをべんと叩いてやる。
………でも…。
「……やっぱウゼぇ…よな」
「アレ?なに?マジで凹んでるの?」
尚ががくりと肩を落とすと岳斗が心配そうに尚の顔を覗きこんでくる。
「俺はウザイと思うけど遥冬さんは思わないでしょ?」
「ええ~……そうかぁ…?追い返されたのに?」
「う~~~~~~ん………」
困った顔で岳斗が尚を見た。
「お前千尋にべたべたされたらウゼェ?」
「ううん!全然っ!べたべたして欲しいっ!」
…まぁそうだろうな、とそこは納得する。そう言いながら岳斗は胸元のクロスを嬉しそうに握る。
「他の男来るからって追い返されたんだけど…」
「トモダチじゃないのぉ?」
「違うって…言ってた」
「違う………?…………元々遥冬さん綺麗だけど、最近の遥冬さんって…ほんっと見惚れる位綺麗だから…」
岳斗が恐る恐るという感じで尚を見る。
「尚先輩…………………終了?」
「こんのっ…てめ…」
岳斗に突っかかろうとしたけれどはぁ、と大きく溜息を吐き出して尚はさらに肩を落とした。
「いいわ…帰る。じゃな…」
「え!?ちょっと…っ!尚先輩、マジでホント!?」
「マジでホント…」
「いや、ないと思うけど……だって尚がいい、ってあんなに綺麗に笑ったのに…まだ何ヶ月も経ってないよ?」
「……俺に言われても知らねぇよ」
「ちゃんと確かめたら~?」
「怖いからヤダ」
じゃ、と岳斗のいる酒屋を出て、項垂れながらとぼとぼと尚は自宅に帰った。
気分は沈んだまま、さっさと自分の部屋に入って何もやる気も起こらずベッドに横になる。
もう遥冬は何度も尚の家に来ているし、ここで寝ている。
つい先週だって来たばかりだ。
それなのに…もう用なし?
なんで?
頭を掻き毟りたくなってくる。
あんなに求め、求められている、と思っていたのに…。
なんかしたっけ?…考えても何も思い当たらない。
ただの友達で尚との事が知られるのが嫌?
…いや、友達とは違うと言った。それなのに遥冬は尚を帰して奴を部屋に入れるんだ。
あのちょっとうろたえたのも…。メールに嬉しそうにしたのも…。
何故?
尚に対して仮面のような表情を向ける事がなくなっていたのに、何故と聞いたあの時は作った表情を貼り付けた。
なんでだ…?
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