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2012.09.20(木)
「これCDに落とせるか?」
「うん」
落としている間怜は楽譜を眺める。
そして溜息を吐き出して明羅を見た。
「…何?」
「………なんでもない。…いや、ちょっと困ってる、か」
怜がぐしゃぐしゃと明羅の髪を撫でた。
「困ってる?」
「ああ。どうやってコレに応えたらいいのかなぁ、と」
「?」
「……どれ、ピアノの部分だけは弾いてみるか」
怜が立ち上がった。
「…なんかあんまり、怜さん乗り気がでない?」
「恥かしいだけだっ。気持ち的には高揚してるが!これをお前が弾いてくれるならそりゃあもう泣いて喜んでお前を離してやらないけど?」
「…………」
ふるふると明羅は頭を振った。
「だめ」
はぁ、と怜が肩を落とす。
「まったく…なんつう曲作るんだ」
「だって……分かるの怜さんだけだから」
「そうだろうけど!」
どうにも怜が複雑そうだ。
「怜さんの音に合わせたんだけどなぁ」
「それも分かる!分かるけど…」
複雑そうにしながらも怜はピアノに向かって、あれこれと言いながら曲をさらった。
やっぱり機械の音とは全然違う。
明羅の顔はにやけてしまう。
だって何も言わなくたって、指示を書かなくたって怜は全部それを表現してくれるのだ。
こう弾きたかった。
本当は自分が。
自分は出来ないけれど全部怜がしてくれる。
ピアノの部分だけでも心が嬉しいと悲鳴を上げる。
これがやっぱりオケと合わされたら明羅はまた泣いてしまうだろう。
いつ陽の目をみるか知らない曲だけど、自分の中では満足だった。
「……受け取ってね?」
「……受け取る。これと<ハッピバースデイ>は俺以外誰にも弾かせないぞ!楽譜出版もなし!絶対出すなよ。<エロワルツ>は妥協して許す」
明羅はくすくすと笑った。
「どれも怜さんしか弾けないと思うけどね」
「弾くだけなら誰でも出来る。だがそれもダメだ」
「いいよ。だって俺の、全部怜さんのだもん。怜さんが好きなようにして」
「…それが中々好きにさせてくれないんだよなぁ」
「え?」
「だって起きられなくしたらまずいなぁ、と思えば抑えちゃうし」
「………そっちじゃなくてっ」
かっと明羅の顔が赤くなった。
曲が出来上がったので久しぶりにゆっくりすることにしてソファに座っていた。
「明羅、ご両親っていつ帰ってくるんだ?」
「え?知らない。いつも突然だから」
「……一応俺にも心の準備というものが必要なんだが」
「うん。いつでもOKにしといて」
からっと明羅が言えば怜はがくっと肩を落とした。
「…じゃ、練習しとく」
「うん!弾いて!聴きたい」
ゆっくり怜の演奏を聴くのも久しぶりだ。明羅は怜の奏でる音の中に身体を泳がせた。
そしてやはり突然それはやって来た。
曲が出来上がって三日目。
明羅の電話が鳴って明羅と怜は顔を合わせた。
「……もしもし」
『明羅?家着いたから』
「はい!?」
『今から帰っておいで』
「…あのさ……いい。分かった。じゃ」
明羅が電話を切ると怜が怪訝な表情で明羅を見ていた。
「……家、着いたって」
「はっ!?」
怜が驚きで絶句する。
「………うちも相当普通じゃないと思っていたが、お前の家ほどではないかもしれない」
明羅は何も反論はなく、ただこくりと頷いた。
怜はスーツに着替えて明羅は普段着のままにコートを羽織る。
やっぱりびしっとした姿はかっこいいと、スーツ姿が見られたのに思わず口角が上がった。
前に見た時は盗み見のような時だったのを思い出す。
「あ、指輪…」
「首に下げとけ」
「……うん」
ちょっとやだな、と思いつつ指輪を外してチェーンに通し首につけた。
指が寂しい。
怜の首はワイシャツ、ネクタイで鎖も見えない。
「明羅、CD持ってきて。車で聴いてく」
「あ、うん」
時間があれば怜は機械から落としたCDをずっと聴いていたのだ。
「でもこれは演奏いつ出来るかなんて分からないのに」
「いいの!俺が聴きたいだけだから」
飽きる事なく怜はそれを聴いているのだ。
顔をニヤケさせながら。
「これは俺は自分で弾くやつより電子音の方が安心して浸って聴けるな」
「え~~…つまんないよ」
「じゃお前が弾いてくれ」
「だってピアノだけでもだめだもん」
「……まぁ、そうだな」
怜も頷いた。
「さ、行くか」
はぁ、と怜が大きく溜息を吐き出すのに明羅が笑った。