一進一退の緊張した試合が続く。
力は互角だ。
少しでも緊張を解いたほうが負けだ。
均衡が崩れた途端にきっと点差は広がるだろう。
それは一体どっちだ!?
「サーブくるぞっ」
「宙っ!」
綺麗に宙に向かって上がったトスを宙は誰を使うのか。
「オープン!」
「レフトっ」
声が入り乱れる。相手コートもブロックの準備。
ボールがネットを越えてコートに突き刺さる。
それが行ったり来たり。
「声出せ!声で負けるな!」
「大海っ!」
1点を互いに追いかける。
ただひたすら一つのボールを追う。1点1点が今までの全部だ。
そして3年間一緒に時間を過ごしたのにこの場には立てない杉浦の思いの籠もったボールを落としちゃいけない。
「拾えーーーー!!」
「追えーっ!」
ラリーが続くと長くなる。一本決まるまでいったいどれ位時間がかかるのか。
弱気になったら負けだ。
「もってこーーーいっ!!!」
高く、高く!ブロックがついて来られないように。そして弾き飛ばすように!
大海が渾身の力を込め、全身のバネを使って腕を振りぬく。
相手コートにボールが突き刺さればメンバーが腕を振り上げ集まって喜ぶ。
しかしそれもつかの間、すぐに相手に返される。
「切り替えろっ!」
自分達だけじゃない、今まで対戦してきて自分達が勝ちあがってきた分負けた学校があるんだ。
その分の思いも背負わなくちゃいけない。
高校の頂点目指して!
杉浦のおかげで部の団結力は強いと思う。皆、好きで部活をしているんだ。なかなかレギュラーになれない奴も誰も文句を言う者もいない。
言えるはずがないんだ。
誰が見たって杉浦はきっと高校生の中でナンバーワンセッターなはずなのに!
その杉浦が出たくても試合に出られないのに!
杉浦が試合に出られれば…。いてくれたら…。
今まで大海は何度思った事だろう。
思っちゃいけないと分かっている。でもやっぱりどうしたって思ってしまう。
…それが分かっているからセッターの宙はひたすら頑張った。
それでも部活内の練習試合で杉浦がコートに入ると圧倒的なセンスを見せ付けるんだ。
宙はそれにフテる事もなく、吸収していったと思う。
けれどどうしたって天性は補えない。
あの杉浦の手に吸い付いてくるようなトスがあれば…。
もっと打てるのに…。
大海は今まで何度も思っては打ち消した。
そしてきっと誰よりそう強く思っているのは杉浦なはず。
あの一緒に出た試合の後死んでもいい、とまで言った位強い思いを持っているのにあれ以降杉浦はちらとも気持ちも本音も出した事なんかない。
でもそんな事…言わないだけで誰もが分かってるんだ。
だから皆頑張れた。
この3年間…。
1セット目、デュースの末に取られた。
セット間でコートチェンジ。
「まだ流れは膠着してる。このまま崩しちゃいけない」
「おうっ!」
「一本目がもし宙から反れたら宙にあげてセンターから攻撃。ただし使えるのは1本だけだ」
杉浦の指示に頷く。
「気持ち切り替えて2セット目!」
「うしっ!」
声をあげ、拳を交わしてコートに散っていく。
大海は無言で杉浦をちらと見て頷き、コートに入る。
2セット目まで落としたらキツイ事になるし、モチベーションも下がる。
そうなっちゃいけない。
「大海中心でいく。ただ決まりやすくなるよう揺さぶりはかけるから速攻もまぜていく」
コートの中で円陣を組み、言ったセッターの宙の言葉に皆が頷く。
「任せろ」
「大海~!決めろよ~!?全国ナンバーワンアタッカーだろぉ?」
吉村の明るい声が皆の強張った雰囲気を解す。
「それには綺麗にアンダーをあげてもらわねぇとなぁ~?」
「げ、こっちにふる!?」
一人が突出してたって試合に勝てるなんて甘いもんじゃない。
それに大海はマークも常についている状態だ。
「大海はブロックキツイだろうけど…」
「いい。跳ね返してやる」
「頼もしいっ!」
「うし!いくぞっ!」
互いの拳をぶつけ、気合を入れていざ2セット目へ。
これも出だしは点数は交互に。
だが少しずつ点差が広がってきた。
途中、杉浦の言った宙のセンター攻撃に相手が揺さぶられた所為だ。
それでも大差というほどに点差が開かないのはやはりさすが優勝校だ。
このままの流れで3セット目と行きたい所だがそんな簡単に事は進みそうにない。
流れが変わってしまえば僅差などあっという間に追いつかれてしまうのだ。
少しも気など抜けない。
会場が熱い。
観客の声もホイッスルもどこか遠くで鳴っているような気がする。
隣に杉浦は立ってはいない。それでも常に存在はコート上に感じる。
杉浦ならどうする?
どこに持ってくる?
きっと宙も他のアタッカーも常にそれを考えているはず。
ずっと一緒にしてきたんだ…。
ここに、同じ時に杉浦も立っているんだ。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学