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hit記念リク 大海×悠 3

side 悠

 緊張の場面が続く。
 悠は手に汗を握りながら必死に自分を落ち着かせようとただじっと試合を見ていた。

 冷静に…。

 自分の中で呪文のように唱える。
 永瀬が跳ぶ。ちょっと打ちづらそうな時があると本当はいてもたってもいられなくなる位だ。
 自分だったらもっと永瀬を気持ちよく打たせてやれるのに…。
 そんな事を思うのもおこがましいと分かっている。
 分かってはいるが、思わずにはいられない。

 宙が悪いんじゃない。
 宙は全国レベルのセッターだ。それでも…それでも自分が、と思ってしまうほど悠は永瀬との時間を共有したかった。
 手に力が入り、握った拳が震える位…。

 いつでもおぼろげな視界。
 人がどんな世界を見ているのか悠には分からない。
 眩しい光。大きな歓声。
 3年間闘ってきた仲間とのこの一瞬が大事だ。

 分かっている!分かっている…。
 自分はコートの中に立てない。立っても邪魔なだけだ。
 だからこそ悠は自分からユニフォームは着ないと突っぱねた。
 そうじゃなければもう一度永瀬と…、なんて甘い夢を見てしまいそうになったから。

 あの1年の時の試合はいつまでも悠の脳裏にはっきり焼きつき、浮べることが出来る。
 唯一公式の試合で永瀬と一緒のコートに立ったんだ。
 ネット越しじゃなくて、こうして外からでもなくて、一緒のコートに、だ。
 あの時間が悠の宝物だった。
 あれがあったから3年間やってこれたんだと思う。

 もうバレーには触らないと決意して望んだ高校に永瀬がいたなんて。
 どんなに呪ったか…そしてどんなに感謝したか…。

 そしてさらに永瀬はバレーもできないのに悠を選んでくれたのだ。
 こんなに不完全な自分を、だ。
 いつもいつも悠の隣には永瀬がいてくれる。
 それなのに!肝心のコート上でいられないなんて!

 こんな役立たずを永瀬は大事にしてくれている。
 いつもいつも永瀬の目は悠を見てくれている。
 手を差し出すといつでも永瀬は受け止めてくれる。

 ……それに甘えきっているんだ。
 本当は悠なんかと一緒にいないほうがいいに決まっているのに、離してやれないんだ。
 永瀬…。
 綺麗に跳んでいるのが見える。
 本当はあの時の試合のように永瀬の隣に立ってそれを眺めていたい。

 それはもう叶わない夢だ。でもコート上にいられなくてもこうして永瀬を見ている事は出来る。
 ずっとずっと見ていたい。
 一緒にコートの隣に立てなくてもずっと共にいたい。

 高校最後の決勝。
 まさか本当にここまで来るなんて…。
 公立の高校で、バレーでなど名前も聞かない学校に大海がいた。こんな所で永瀬が埋もれるなんて、と思ったものだ。
 それが双子の転入と一年の時の地区大会で少しばかりいい成績を収めたので翌年、いい選手が入部してきて選手層が増えた。
 コーチも監督もいないと言っていい中、こうして…夢の舞台に立っているんだ。

 叶うことなら自分も……。

 どうしたってその思いを払拭する事なんて出来ない。
 点数が2点続けて入れられたところですぐに悠は立ち上がりタイムを取る。
 ホイッスルが鳴り、選手が集まる。控えの選手がドリンクを用意。

 皆汗だくだ。いつもよりも疲労が早い。
 こんな緊張した試合じゃそれも当然。でもそれは相手チームだって同じだ。

 「苦しい?でもウチだけじゃないよ?相手も一緒だ。向こうだって練習を重ねてきている。プレッシャーでいったら春高で優勝している向こうの方が緊張の度合いは高いと思う。………試合を楽しんで。勝ち負けは勿論だけど、このインターハイの決勝の試合に出られている事を楽しまないと」
 ボールに、点数に夢中になりすぎていた。余裕が見られなくなっていた。
 そこを指摘する。

 負けたってなんだってここの舞台に立っている事が誇れることなんだ。
 どうしたって悠はそれを味わえない。勝って泣くのも、負けて泣くのもどちらか一つしかない。でも後悔するような事はして欲しくなかった。 

 そして…コート上ではそれを分かち合えない自分。
 …皆が分かってくれている。それでもこうして考えて思ってしまうほど自分は自己中心的なんだ。

 「……余裕がなくなっていたな」
 「うん。顔が笑ってない。声も」
 皆が頷き、ホイッスルが鳴って掛け声を一つかけコートに戻っていく。
 その後は元気も余裕も戻し、そして取られた分を取り返しさらに点差を広げ2セット目を手に入れた。

 そして3セット目は取られ、4セット目は取り返し、と全くの五分。
 毎セットの点数取りみたいにセットカウントも取りあいだ。
 そして最終5セット目。
 もう本当にこれが最後だ…。

 

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