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hit記念リク 大海×悠 4

 「最後…楽しんできて?」

 そう選手に声をかけた杉浦が仄かに笑っていた。
 それに皆が頷き、そしてコートに入り円陣を囲む。

 「これが本当に最後だ。今まで誰も口に出さなかったけど…杉浦の分も…と誰もが思っているはず」
 メンバー皆が黙って頷く。
 「自分が試合に出ないのにずっと付き合ってきてくれた杉浦の為に。これまで倒してきた相手校の為に…恥じない試合にしよう」
 拳を出し、皆で気合を込めた。

 5セット目は15点までなのであっという間に試合は決まってしまう。
 本当に一瞬でさえ気が抜けないんだ。
 ほんの少しでも均衡が崩れればあっという間に試合は終わってしまうだろう。
 「集中ッ!」
 「っす!!!」

 とうとう最後のセットのホイッスル。心臓が大きくどくどくと鳴っている。これは決して自分だけじゃないはず。
 ちらと大海は一瞬だけ杉浦に視線を向ける。
 もどかしいだろう。出たいと思っているだろう。
 試合が終わったら、杉浦の全部を受け止めるつもりだ。この3年間ずっと溜め込んでいただろう思いを全部。

 「大海っ!」
 「そのままもって来いっ!」
 相手のサーブが大海の手元に、それを宙に返し、そのままバックアタック。コートに突き刺さる。
 5セット目は1点が重い。サーブのミスが命取りに繋がる。
 緊張の連続。
 点数は相変わらず行ったり来たり。
 この試合の最初から全部がずっとだ。

 ブロック。
 フォロー。
 コートの中に杉浦はいないけれど、ずっとちゃんとここにいる。
 コートの中に。

 本当はこんな緊張の連続の試合だと正直自分の所にボールは来ないで欲しいと思ってしまう。ミスしたら?アタックを外したら?
 でもそんな事考えちゃいけない。だからこそ自分で呼ぶ。
 「もって来ーーーいっ!」

 チームのエースだ。自分が決めないでどうする!
 高く!誰よりも高く!疲れたなんて言う事なんか出来ない!ここに立ちたくても立てないのは杉浦だけじゃないんだ。
 ズドン、と重いボールがコートに突き刺さる。

 「ひ~~~~!旦那!冴えてる~~~!そのままな~~!」
 吉村がジャンプしながら大海の頭を叩くと笑いながら皆で拳を付き合わせる。
 ふっと大海は熱い熱気の籠もる会場を見渡した。
 保護者。学校の応援団。先輩。杉浦のお兄さんもいた。
 ここの場に立てているのは自分達だけの力じゃないんだ。

 杉浦を視界の端で捕らえる。
 杉浦はずっとじっとしたまま冷静に試合を見ている。
 でも誰よりもバレーに対する思いが強い。

 8点でコートチェンジ。
 取ったのは相手チームだ。でもこっちも7点で1点差。
 均衡は崩れない。
 そのままデュース突入。
 会場が段々と緊張の息を飲み込み、そして静かに静まり返っていく。
 聞こえるのはホイッスルとボールを追う選手の声、ボールの弾む音、ボールを追う足音だけだ。
 大きい会場が両チームの1点の攻防に固唾を飲み込む。

 15点は過ぎ、もう20点を超えた。
 いつまで続くのだろうか?

 20-21。
 21-21。
 21-22。
 22-22。

 点数が重なっていく。

 デュース。
 デュース。
 デュース。
 どこまで…?

 熱と緊張と疲れで視界がぼやけてきそうになる。
 「もってこーーーい!」
 「上げろっ!」
 吉村が縦横無尽にコート上を動いている。

 26-25。

 点差は1点。リードは相手チーム。
 ここで決めないと!
 大海は高く跳び上がった。身体を反らせコーナーを狙って打ち抜いた。魂を込めた!

 大きく跳び上がった大海の身体がコートに着地。
 どすん、とコートに突き刺さったボールが点々と転がっていく。
 しんと会場が静まり返った。
 ラインズマンの判定は!?
 選手、審判、観客…全員の視線が突き刺さる中、ずさっとラインズマンの赤い旗が上に上がった。
 

 …………終わった…………………。
 

 どうっと会場が揺れた。
 そして試合終了のホイッスルの音。
 コート中央に集まって喜ぶ相手チーム。
 大海はしゃがんだまま、立ち上がれないまま杉浦の方に視線を向けると、杉浦はいいんだ、と言わんばかりに仄かに笑みを浮かべて小さく首を振った。

 「わりぃ」
 「いや、入ってた」
 宙が屈んだままだった大海の肩を叩き、そして手を出してきたのに大海はその手につかまり立ち上がる。
 「大海……!…入ってた!…絶対っ!」
 近寄ってきた吉村も悔しそうに声を震わせる。
 
 だが、もし入っていたとしても今更それが覆ることはない。
 ………試合は終わったんだ。

 「大事なところで際どいとこに打った俺が悪かったんだな…」
 「そんなことはない!」
 ホイッスルの音でコートを出て並んで挨拶。
 その後相手チームとネット際で握手を交わした。
 そのうちの一人が大海の手をぐいと引っ張った。

 「入ってた!………すまないっ!……もっとずっと…試合を続けたかった…」
 「……ああ」
 後悔はない。
 大海は薄く笑みを浮べる。
 これで大海の高校生活のバレーは終了。
 でもまだこれからもバレーは続けるんだ。ここからが大海のバレー人生の出発点かもしれない。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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