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熱視線 協奏曲~コンチェルト~1

 明羅は久しぶりに家に戻った。
 「明羅!」
 両親が揃っていて抱きつかれる。
 「久しぶり!」
 「大人になってる~」
 佐和子がのんびりした口調で言った。
 「怜君」
 「ご無沙汰しております。レッスンではお世話になりました」
 怜が佐和子に頭を下げた。
 「いいえ~。当時でも全然レッスンいらない感じだったもの。CD聴いたわ…っと、立ち話もなんだから上がって頂戴」
 「怜君、明羅がすっかり入り浸ってすまないね」
 「いえ、初めまして、二階堂 怜です」
 両親の前で怜が緊張気味なのがおかしくて明羅は口を手で押さえた。
 「……なんだよ」
 小さく怜が囁いて明羅を肘で小突いた。
 「ううん~?」
 明羅はにやにやと笑った。
 リビングにいって明羅は当然の様に怜の隣に座る。
 「で?どうだった?」
 「どうって」
 両親が顔を合わせていた。
 「あれは怜君だけのためのものでしょう?」
 「そうだよ」
 母の言葉に明羅が頷く。
 「怜君に執心してたのは知ってたけど」
 落ち着かない様子の怜をチラッと見ると困惑の表情をしている。
 「演奏会も大成功だったってあちこちから聞かせられたよ」
 父が頷きながら言った。
 両親どちらもおっとりした感じだ。
 「あんな曲書く子だったのぉ?」
 佐和子が明羅を見た。
 「あれは…あんなちゃんとしたの、ちゃんとしてるかは分からないけど、作ったの初めてだよ」
 「初めて!」
 両親が声を揃える。
 そして怜はひたすら黙っていた。
 「で、明羅、ピアノ協奏曲は?」
 父に促されてバッグから紙の束を取り出した。
 「音源一応あるよ」
 「いや、いらない」
 父親がじっとスコアに見入った。その横で母親も覗き込んでいる。
 明羅と怜は顔を合わせた。
 そしてすぐ父親はそれをテーブルに置いた。 
 ダメだったのかな?
 どうせあれは明羅が自分で書きたかっただけだから別に評価は気にならないけれど。
 「怜君、あのソナタを弾いてちょうだい」
 佐和子が言った。
 その声は母親の声じゃなくて演奏家の声だ。
 そして父の目もそれに変わっている。
 「…はい」
 リビングにピアノはないので部屋を移動した。
 
 
 「ほらね?弾かせられるでしょ」
 「…だな」
 つんと明羅が怜の袖を引っ張ってこそりと怜に耳打ちすれば怜が苦笑した。
 「俺、嬉しい」
 「俺は緊張でおかしくなりそうだぞ」
 怜が口をむっと引き結んでいる。
 「大丈夫だよ」
 「おま、そんな簡単に」
 「大丈夫だもん。怜さんの音はいつも俺をぞくぞくさせるし」
 「………よし。さらに今日は気合入れて弾くぞ。なにしろお前の両親だからな。ダメだしされたら目も当てられない」
 「ないない。大丈夫」
 くすくすと明羅が笑った。
 スタインウェイのフルコンのピアノが二台並び、それでもまだ広い部屋に怜が呆れていた。
 ちろっと明羅を見る。
 「なぁに?」
 「…いいや、なんでも」
 「怜君」
 佐和子がピアノの用意をした。
 譜面台もとっている。
 「…この間よりずっと緊張してるぞ」
 怜が明羅に囁くと明羅は大丈夫だって、と安請け合いをする。
 怜がピアノに座って親子3人はピアノから離れた所にあるソファに座った。


 怜の息遣いが聞こえてきそうな演奏。
 ステージの上とはまた違う緊張感。
 それでもやっぱり二階堂 怜は二階堂 怜で、明羅の背がその音に戦慄く。
 微妙に怜の家のピアノと音色が違う。
 いつの間にか調律はしてあったらしい。音の狂いがない。
 ピアノが違ってもやっぱりいいものはいい。
 初めて触る鍵盤だろうにそこに迷いはなくて、身体が震えてくる。
 明羅のいつも弾いていたピアノはこんな音がするんだ、と初めて知った。
 全然音が違う。
 そう、こう弾きたかった。
 自分の家で、練習で、こんなに弾けたらどんなに気持ちいいんだろう。
 親の存在なんて忘れて怜の音に聞き惚れる。
 いつも怜の音は明羅のもの。
 明羅の曲は怜のものだ。
 気合を入れて弾くと言った怜だが、気合じゃなくて透明感が増してる。
 本当に毎回進化しているようだ。
 弾くたびに洗練されていくよう。
 それでいて迫力は損なわれていない。
 いったいこの先どうなっていくのだろう?
 この人をずっと独り占めできるのだろうか?
 怜は明羅を離さないと言ってくれるけど、絶対自分の方が執念深いとおもう。
 なにしろ子供の時から10年だ。どれだけその期間の長かった事か。
 
 

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