4 泉(IZUMI) …今日も八月朔日は調子がよさそうだ、と泉は八月朔日の練習を見ながらほっとした。
一時期のスランプが嘘のように八月朔日は空に飛んでいきそうな位に軽やかにバーを越えている。
運動が苦手な泉にとってはとても同じ人とは思えないと思ってしまう。
あんな風に飛べたら世界は違って見えるのだろうか…?
「何見てるんだ?ああ?八月朔日?」
六平が窓に立って外を見ていた七海の隣に立った。
しまった、と泉はチッと舌打ちする。
いつも八月朔日を眺めるのは誰もいない時なのに今日は気が抜けていたらしい。
「……なんで舌打ち?」
六平が呆れたように泉を見ていた。こいつには本性は隠す気なんてさらさらないのでどうでもいい。
コイツも人に対してさして興味もなくいつも飄々としていたのだが、ここ最近五十嵐くんに関してだけは別になったらしい。
仕方なく一緒に並んで八月朔日の練習を見た。
「…すげぇな」
「…………」
そんなの知ってる。
「そういや七海は人の名前も顔も覚える気があんまないのに八月朔日だけは別なんだ?」
にやっと六平が笑ったのに泉はちろりと睨んだ。
「…別に…」
「そういや駿也にも確認してたな?」
「……お前こそ人の事なんか気にもしないのに」
「駿也が絡んでれば別」
泰然としたまま六平が言い切るのに泉は顔を顰めた。
「別にそんなんじゃない」
「へぇ~」
まるきり信じてない六平の面白そうにしている顔にイラっとする。
「ま、別にいいけど」
六平が顔をにやつけさせたままそんな事を言う。
打ち合わせ始めるぞ、と会長の声が聞こえて六平が窓から離れたので泉はもう一目、と八月朔日に視線を向けた。
あ…。
八月朔日がこちらを見ていた。
視線が合ってどくりと小さく心臓が跳ね上がる。
そして八月朔日がかすかに頭を下げたのに思わず泉はくるりと背を向けた。
なんでこっちを見ているんだ!?
今までここでこっそり見ていたのは泉だけの楽しみのはずだったのに!
今日は廊下でも視線が合って、今もだ。
ここから八月朔日まで距離はあるけれど視線は合ったはず。
かっと顔が火照りそうになるのを無理やりに押し殺す。
「七海?」
「………なんでもない」
六平が不思議そうな顔をしていたのに思わず頬を押さえた。
「………素直になれよ?」
「……なんの事だ?」
「さぁね」
六平が面白そうにくっくっと笑っていたのに腹が立ってくる。
「…意外と分かりやすいやつだったんだな?」
何がだ!?
きっと眼鏡の下から六平を睨んでやると六平が肩を竦めている。
「これが大人しそうな儚い美人?…ほんと偽ってるよな」
「ああ?何の事だ?」
「お前の秀邦における評価。駿也が気にして気にして」
「何を?」
「お前の存在。本当は俺が七海を好きなんじゃないか、とか」
「………気色悪い」
「同感だけど。やきもちも可愛いんだ」
「………………バカだろう」
「まったくだ。自分でも馬鹿さ加減に呆れそうだけど仕方ない。可愛いものは可愛い」
勝手にやってろ、と泉は六平に呆れた。
別に自分は八月朔日の跳ぶ姿を見るのが好きなだけだ。
…綺麗だから。
しなやかな身体も躍動する身体も目を奪われたのは初めてだった。
……それだけだ。
別に六平が思っているようなもんじゃない。
だいたいなんで今更男にいかなきゃないんだ?
しかも、もし、もし…八月朔日とそういう事になったら絶対ヤラレるのは自分のほうだろう。
泉だって背は低くはない方だが、それ以上に八月朔日は背も高いしスポーツをしているために身体だって泉よりもがっしりしている。
アレを泉が抱くなんて考えられるはずがない。
「…かわいくもない」
「あん?」
「…いや、なんでも」
ぶるぶると頭を振った。
じゃあ抱かれる?自分が?……それも考えられない。
だから無理。
ただ目を惹かれるだけだ。
……それだけ。
そう自分に言い聞かせながらそっともう一度窓から外を振り返った。
八月朔日が綺麗にバーを飛び越えている所だった。
……やっぱり綺麗だ、と思う。
人の身体の身体能力が魅力的に見えるだけだ。泉には持ち合わせていないものだから。
そう、それだけだ。
自分に言い聞かせ窓から視線を外し、打ち合わせの為に席に着いた。
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続きに拍手コメお返事です^^
S様
ぱっつぁん(笑)
すでに…なのですが~素直にいかないが
秀邦テーマです~(笑)
ありがとうございます~^^
kin様
鮮やかに、にありがとうございます~^^
嬉しいです////
イメージまんまだと思いますっ!
そんな感じに思って書いてました~(^m^)
ありがとうございます~^^
U様
ありがとうございます~~m(__)m
体調はいかがでしょうか?
無理しないで下さいね(><)
毎日は私は書き終わってるのをうpなので
そこまで大変という感覚はないのですが^^
でもありがとうございます~^^
yy様
お名前一緒でしたか~!^^
スミマセン…かな?(^m^)
昔は~子か~美ですけどね~!
今はなんでもありで、読むのも困難な名前が多いですね^^;
ドキドキ…大丈夫かな…^^;
ありがとうございます~^^
テーマ : 自作BL小説
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