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熱視線 協奏曲~コンチェルト~2

 怜の手が振りきって長い演奏が終わった。
 ほうっと怜は息を吐き出したのに明羅はまた潤んできた目をはっとして指でこそりと拭って両親を見た。
 「……素晴らしい」
 「…ええ」
 明羅はそれだけぇ?と不満そうに両親を見た。
 「…ありがとうございます」
 怜は立ち上がって両親に頭を下げる。
 「いや、怜君そのまま」
 父親がピアノから離れようとした怜を止めた。
 「?」
 怜はまた座る。
 「明羅」
 父親が明羅に並んだもう一台のピアノを指差した。
 「何?」
 「さっきのピアノ協奏曲」
 「は?」
 「お前がオケの分弾いて」
 「……やだよ」
 「だめ。弾きなさい。お前が作ったんだ。ピアノの部分が無理でもそれ以外のところは弾けるだろう」
 音楽家の顔になっている父親は優しげな顔はどこに行ったのかといわんばかりで厳しい。
 こうなったらてこでも引かないのは重々分かっていた。
 嘘だろう、と思いながら明羅はのろのろとピアノに向かった。
 「譜面台も取れ」
 怜が隣でにやにやしながら言ってきた。
 むっと明羅が怜を軽く睨む。
 「全然ピアノ弾いてないんだよ?」
 「つべこべ言わない」
 すっぱりと父に切られた。
 まさかこんな事になるとは思いもしなかった。
 はぁ~と長い溜息を吐き出した。
 そして息をついて顔を上げた。
 怜の顔を見ると怜が頷いている。
 まずは管からだ。
 明羅は手を鍵盤に置いた。
 まさか2台ピアノで弾くはめになるとは思ってもいなかった。
 でもこれは明羅の気持ち。誰よりもよく分かっている。


 ダン!
 明羅が弾き始めた。
 衝撃だった。
 7歳で二階堂 怜のコンサートに行って始めの一音から特別だった。
 ああ弾きたい。 
 ああ弾けたら。
 自分の欲しい音がそこにあった。
 溢れてた。
 それなのに聴けるのは年1回。
 毎年聴きに行って、毎年さらに焦燥感に駆られて。
 欲しかった。
 自分に。
 追い求めて、ずっとずっと。
 練習した。毎日だ。
 それでも届かなくて。
 そして夏がくるとまた打ちのめされて。
 そしてまた狂ったように練習。
 それが今年は違ってて…。
 ついに自分にそれは手が届かないものだと知った。


 それなのに自分は手に入れた。
 ううん、与えてくれたのだ。
 欲しかった音。
 音だけだったのに、いつの間にか音だけじゃ済まなくなって。
 全部欲しくて。
 この人が欲しくて。


 明羅はふっと弾きながら怜を見て、怜と視線をを合わせた。
 息が合う。
 そう怜は全部分かってくれる。
 明羅の息遣いもタイミングも全部。だから安心出来る。
 明羅の指がキーを降りる。
 怜の指が追いかける。
 トリル。
 そして音が重なって。
 離れて座って弾いているのに一緒に弾いているような感覚。
 ああ、楽しい。
 快感が襲ってきそうだ。
 自分で弾いていてこんなの初めてだ。

 
 そう、海に連れて行ってくれたのも初めてで嬉しかった。
 あれもこれも。
 ジュ・トゥ・ヴで気持ちが通じたと思ったのに怜は違ったのでは、と思った時は悲しくて。
 

 でも通じ合えて嬉しくて、感謝した。
 この人が欲しくて。一緒にいたくて。
 年1回だったはずの音は毎日明羅のものになって。
 CDの録音の時も感動したけど、コンサートも感動して。
 一緒にいられるようにしてくれたのも怜だ。
 明羅の欲しい事、望んでることを全部叶えて与えてくれるのは怜だけで。
 その人がクリスマスに指輪をくれて。
 嬉しくて。
 泣きたくて。
 怜の家に入れてくれた。
 全部、全部。
 だからコレをあげる。
 全部、気持ちのたけをつめたこの曲を。
 受け取って。
 一緒にずっといたい。
 分かって。
 ううん、分かってくれてる。


 いつの間にか最後の一音になっていた。
 はっとして明羅は鍵盤から手を離して、そして怜を見た。
 怜はうっすらと汗をかいていて、明羅もまたそうだった。
 楽しかった、けど…。
 怜は照れた笑みを浮べて明羅を見ていた。
 怜の反応を見て悪くはなかったらしいとほっと明羅は息を吐き出した。
 そして両親を見た。
 二人は難しい顔をして明羅と怜を見ていた。
 ダメだったのかな?
 
 
 「……日本公演が決まってる。その時にこれを使おう。怜君」
 「……はい」
 怜は頭を下げた。
 はい?
 明羅はきょとんと怜と両親を見比べた。
 怜は苦笑を漏らしていた。
 
 

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