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書記クンは猫かぶり 13

13 泉(IZUMI)

 八月朔日と分かれて生徒会室に戻る。
 もうすぐインターハイだ。どこでするのか…見に行きたいけど…。

 「すみません」
 「いや、まだ始まってない。あ、七海、ちょっと」
 すでに生徒会室には皆集まっていたのに遅れたか、と思って頭を下げたら一条会長に呼ばれた。
 なんだろう?と思いながら近づくと窓際に来い、と呼ばれたので窓際で外を向いて立った。
 高跳びの練習が見える。
 走り終わって今はバーのセッティングをしているらしい。

 「夏休みにウチの別荘に遊びに来るか?」
 「え?」
 珍しい。自分が誘われるなんて、と思わず泉は会長の顔を見た。
 「生徒会で、ですか?」
 「いや、関係ない。来るのは二宮、六平、翔太、柏木、五十嵐だ」
 それって…。
 思わずちろっと会長を見てしまうとくっくっと会長が笑っていた。

 「一人モンはお前だけになるけど。…インターハイの会場と近いんだ」
 「………行きます」
 即答するとまた会長に笑われた。
 「八月朔日を誘ってもいいぞ?五十嵐とも仲がいいようだし?大会を終えたら合流でいいんじゃないか?よければ俺から八月朔日のコーチにも言っておく」
 「…………」
 いいのか?と思いつつこくりと泉は頷いていた。

 それにしてもなんで会長が?六平が余計な事を言ったのか?…いや。あいつはそんな余計な事しないはず。
 泉がつい視線を高跳びの方に向けると会長も八月朔日を見ていた。
 そして八月朔日がこっちを振り返って泉を見ているのが分かった。
 「『飛翔』…」
 「え…?」
 会長が呟いたのにどきりとして顔を会長に向けた。
 「あれはかなりよかった」
 「あ……見に…?…ありがとうございます」
 泉は頭を下げた。
 「案内がうちにも届いていたからな。…さ、はじめるぞ」

 もしかして、会長は分かった…?
 思わず泉が計るように会長を見てしまうが会長の表情はいつもと変わらず泉なんかに計り知る事は出来ない。
 まぁ、いいかと思いながらまたちらと八月朔日のほうに視線を向けた。
 ちょうど八月朔日が助走を始めたところだ。まだバーは低いのかかなりの余裕をもってふわりと八月朔日の身体が浮いた。

 やっぱり綺麗だ。
 弓なりに反った背中に長い手足。跳ぶ所を間近で見た事はなかったが遠くからでも軽やかに跳んでいるのが分かる。
 マットに沈んだ八月朔日が顔を上げ、また泉の方を見たのにどきりとしてそして泉は窓から離れた。
 インターハイを…八月朔日が跳ぶ所を見に行けるんだ…。
 思わず顔を俯けて口端が緩んだのに口元を押さえた。
 地区予選の時は応援はどうしても野球やサッカーやバレーに分散するので見られなかった。

 今度は見られる…。
 思わず期待に気持ちが上がっていく。
 ここから、こうして離れている所からでも十分に八月朔日が他の選手より別格だと分かる。
 大会を見にいってもそうなのだろうか?
 …多分そうだとは思うけれど。だって今まで人に対して泉はこれほど惹かれた事はないのだから。
 六平が言うとおり、一発で顔もフルネームも一致したのは八月朔日がはじめてかもしれない。

 それ位惹かれたのだ…。
 さんざん今まで見ないように、気にしないようにと思っていたのだって気にしすぎていたからだろう。
 そして、泉の書いた『飛翔』にあんな反応されて、もう気持ちを抑える事が出来なくなっているんだ。
 …自分から近づいていってしまうほどに。
 六平に言われ、会長にまで言われ、どんなに自分は分かりやすいのか。
 それくらい抑えられてないという事か。

 まったく今更男相手に恋心など…。
 いや、考えてみれば初めて…か?こんな風に人を思うのは。
 人の事など気にした事もなかったのだ。
 人に対してだけじゃない。意欲的になんてこと自体がなかったんだ。
 惰性で全部をこなしていたに過ぎない。
 書も、だ。
 初めて自分の気持ちを込めて書いたのがアレなんだ。

 夏休み…。
 一体どうなるのだろう?
 八月朔日だって泉の事を気にしている。それは分かる。
 好き、と言われた時には思わず馬鹿みたいに動揺してしまったが。
 今日一日待ってたのに来なくて、自分からのうのうと八月朔日の所に出向いてしまうほど待っていたんだ。
 そして八月朔日の嬉しそうな顔にほっとした。
 「……ダメだろ」
 エスカレートしていきそうだ。
 だって昨日会うまではここで八月朔日を見ているだけでも満足だったのに今日はもうそれでは足りない位になっているんだ。
 
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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