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書記クンは猫かぶり 14

14 蓮(REN)

 七海さん自らわざわざ来てくれて、生徒会室の窓を見れば蓮の事を見ているのが分かった。
 どうしたってやる気が漲ってくる。
 一コ上の先輩なのに可愛く見えて…。

 「八月朔日。七海さんわざわざお前の所に?」
 「……わざわざ…かはわからないけど…」
 「七海さんって生徒会の人以外と話してるのって見た事ないけど…」
 そう。あんまり七海さんは人と話さない。
 人見知りだという噂だったんだけど、昨日のあの展示会場での七海さんをみればどう見ても人見知りという感じではないと思う。

 でもあれも八月朔日だけが知っていればいい事だ。
 スーツを着こなして、来たお客さんに対応している所はすごく大人に見えた。
 それなのにさっきの俯いた時とかは可愛すぎる位だ。
 …ぎゅうぎゅうに抱きしめたい、と思ってしまうほどに。
 印象が違いすぎる。
 学校にいる時と人前にいる時とそして二人でいる時と。

 …二人で、とか!
 八月朔日は一人で顔をにやつかせてしまう。
 「八月朔日…思い出し笑い…キモ!」
 「うるさいっ」
 だってそれ位昨日は特別だったんだ!
 にやついたって仕方ない。しかも今日は七海さんから来てくれたんだから!

 もう一度生徒会室を見てみたらもう七海さんの姿はなかった。きっと生徒会の話し合いが始まったのだろう。
 …とにかくもう七海さんの事だけが気になってしまって仕方ない。
 いや、インターハイが近いんだから浮かれ気分ではだめだ。
 蓮は頭を振って気持ちを切り替える。
 そうだ、七海さんは跳んでいる自分を見てくれているんだ。それが綺麗に跳べなかったら見てもらえなくなるかもしれない。

 …それは嫌だ。
 自分がすべき事をしなくては。今は練習だ。
 七海さんが見てる見てないではない。自分自身の進退だって成績にかかっているのだ。
 八月朔日は生徒会室を気にする事なく練習に集中した。

 「え?」
 翌日、六平さんが七海さんと一緒に蓮のクラスにやってきて告げられた内容にきょとんとした。
 「会長の別荘…に?」
 なんで俺?と思わず六平さんのちょっと後ろにいる七海さんを見たら七海さんは顔を俯けていて表情が見えない。

 「会長から直接話されるだろうけど、一応先に。八月朔日のインターハイの会場と近いらしい。で、よかったら、と」
 「え…でも俺なんか…が…?」
 いいのかな、と思う。だって会長と直接話した事もないし、生徒会の役員でもなんでもないのに。
 「会長に話されるまで決めといて。…駿也」
 隣に立っていた五十嵐が六平さんと頭をつけるようにして話だしたのに蓮は七海さんに視線を向けた。

 「七海さんも行くんですか?」
 「………行く」
 「………俺、生徒会役員でもないのに…いいんですか?」
 「三浦くんと柏木も来るって言ってた」
 「じゃあ生徒会で、っていうわけじゃない?」
 「…らしい」
 「それに六平さんと五十嵐でしょう?…………あの、七海さん?」

 それって自分と七海さん以外は皆付き合ってる同士だと思うんだけど…。
 「八月朔日が嫌なら…」
 「七海さん行くなら行きます」
 「…………………八月朔日」
 「はい?」
 七海さんが眼鏡の奥からそっと目を上目遣いにして見上げてきた。

 「インターハイ…見に行っても…いい、か?」
 「も、勿論!…ですっ」
 え!?わざわざ見に来てくれる!?
 「俺…がんばります」
 「…………うん」
 七海さんがふわりと口元で笑みを作ったのにかっとして蓮は思わず口元を押さえてしまった。
 やばい!可愛い!
 ふわふわの髪に触りたい、とまた衝動があがってくる。

 「別荘に…俺…一緒でもいいですか…?」
 「…いい。というか…八月朔日がいないと困る」
 「困る?」
 「だって…この状態だぞ?」
 チラと七海さんが六平さんと五十嵐を見た。
 二人はくすくすと顔をつき合わせて見ているこっちが中(あ)てられそうな雰囲気だ。

 「これが3組だ」
 「…………確かに」
 でもそれなのになんで七海さんは行くんだろう?
 なんで?と首を捻ったら七海さんがまた顔を俯けた。
 「それに…会長に…インターハイの会場が近いって…」
 俺を…見る為…?
 「な、七海さん…俺…」
 思わず七海さんの肩に手を触れた。そして少し屈んで七海さんの顔を覗きこんだ。
 「うぬぼれていい…ですか…?」
 「何の事だ?」
 照れているのでは?と思ったのに七海さんは全然普通の顔だったのにがくりとしてしまった。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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