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書記クンは猫かぶり 16

16 蓮(REN)

 練習にも熱が籠もる。
 「八月朔日!練習熱心もいいが身体を休める日も必要だ。今日はやめとけ」
 「はい」
 コーチの言葉に頷いて、今日は練習を切り上げようと蓮が荷物を纏める。

 すると生徒会の人達がちょうど出てきた。
 それにプラス五十嵐くんと三浦くんと柏木もいる。
 三浦くんと柏木は顔と名前は知っていても教室が離れているので八月朔日は話した事もない。五十嵐はなんだかんだと仲良くなっているらしいけど。

 七海さんもいた。
 相変わらず六平さんのちょっと後ろで目立たないようにして。
 でも八月朔日は誰よりも先に七海さんに視線がいってしまう。
 じっと見ていると七海さんが蓮のほうを見て、視線が絡まった。

 終わりなのか?という目で八月朔日を見たのに蓮は小さく頷いた。
 そんなほんのちょっとのやり取りでさえ嬉しい!先週までは全然視線も合わせてくれなかったのに、この差はいったいなんなのだろうか?

 あの時ふらりと立ち寄った書道展で『飛翔』を目にしていなかったら絶対こうはなっていなかったはず。
 つくづくよかった、と自分を誉めたい。
 ホントなんでこんなに七海さんばかり気になってしまうのか…。
 男を好きになるなんて思ってもみなかったけど、好きなモンは好きなんだから仕方ない。
 それに秀邦にいると違和感ないのがまた増長させるのかも、と仲よさそうに歩く生徒会の人達に思わず笑ってしまう。

 八月朔日だってよく分かる。もう男だろうがなんだろうが関係なしに惹かれてるんだ。
 五十嵐が蓮に気付いて指差すとそのまま生徒会ご一行様が蓮の方にやってきた。
 会長や副会長までいるのに蓮は身構えてしまう。

 「やぁ、調子は?」
 「まずまず、です」
 蓮は会長に問われ頭を下げながら答える。
 初めて会長を間近で見たけど、オーラが凄い。
 どうしたって誰もこの人には逆らえる気も起きないだろう。

 「うわっ!背デカ!和臣より背高い?」
 同じ1年の三浦くんに思わずほっとしてしまうけど、会長を呼び捨て…。
 会長も柏木も背が高い。
 柏木なんか1年の中でも頭も運動能力もトップだったのに部活もしてないなんて勿体無い。
 「なぁ?八月朔日」
 その柏木が蓮の肩を組んできた。

 「あのさ、会長の別荘来るでしょ?」
 「……そのつもりだけど…」
 「お前さ、料理出来る?」
 料理!?
 「………一応は。うち父親しかいないから」
 「よし!」
 柏木がガッツポーズしている。

 「自炊なんだってよ。ところがだ!このメンバーで料理出来る奴いねぇんだよ」
 柏木の言葉に思わず並ぶ人達を見た。
 「というわけで俺とお前は食事当番決定」
 「………それはいいけど…」
 「あ~~…よかった!俺だけかと思ったら!安心した!」
 ぷっと思わず笑ってしまう。
 会長に正式に返事したわけでもないのにすっかり蓮もメンバーに入れられていたらしい。
 それもまた嬉しいしワクワクしてくる。
 自分なんか秀邦には場違いだと思わなくもないのに、その中でもトップにいる会長から誘われるなんて光栄な事だ。

 「会長…あの…俺…本当にいいんですか?」
 「勿論」
 「…ありがとうございます」
 特別な夏休みになりそうな気がする。
 今までこんなに夏休みが楽しみだった事はないかもしれない。
 「詳しい事はまたあとで知らせる」
 はい、と蓮が頷くと会長は三浦くんと自家用車に乗って帰って行った。
 副会長と柏木も歩いて帰っていく。

 「じゃあね!八月朔日」
 「ああ、明日」
 五十嵐も六平さんと帰っていく。
 …残ったのは七海さんだ。
 「七海さんって電車ですか?」
 「ああ」
 「…あの、もうちょっとだけ待っててもらえますか?用具とか片付けてきますから」
 こくんと頷く七海さんが可愛い!

 まさかの一緒に帰られるなんて!早く上がれと言ったコーチに感謝する。
 生徒会の人達に囲まれた蓮を遠巻きに見ていた部活の奴と一緒に片付ける。
 「なぁ。八月朔日って七海さんと付き合ってるのか?昨日も来てたし、今も…」
 ぽつんと立って蓮の事を待っている七海さんに皆が視線を向ける。
 「そうじゃないけど…」

 そう、まだ…。
 …というか普通に付き合ってるとか聞ける環境が驚きだ。
 「七海さんって綺麗だよな…」
 「楚々としてる感じ」
 う~~~ん……楚々としてると蓮も思ってたんだけど、実際はちょっと違う…と言いたいが、それをわざわざ教えてやる必要もない。
 自分だけが知っていればいいことだ。
 それに、綺麗だけど、可愛いんだ…、なんて言いたくなるけど黙っておくにかぎるだろう。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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