18 蓮(REN) 「お金持ちの秀邦のお兄さんだから金いっぱいあるよね?ちょっと恵んでくんない?」
「残念。俺んちは父一人の父子家庭で俺は特待生なんで金はないな」
「チッ…。でもそっちのお兄さんは?見るからにおぼっちゃまそうだ」
「この人も同じ。ない」
「…八月朔日」
ぐっと連は七海さんの肩を掴む手に力を入れた。
何が何でも七海さんは守らないと。
「財布だしてみやがれ」
「いやだね」
見た感じはさほど強くはなさそうだ。ただ3人というのと何か余計な凶器を持っていないかって所だけが気がかりだ。
じり、と3人が距離を狭めるのに七海さんを後ろに庇った。
「八月朔日っ」
小さく七海さんの不安そうな声が背中から聞こえる。
蓮は実際にちゃんと道場で習ったわけではなかったが、柔道も空手も齧っていたし、こういう時の対処方も分かってはいたが、七海さんを庇いながらという所に不安がある。
一人がかかってきたのに足を払ってなぎ倒す。
「くそっ」
一人、リーダー格っぽい男がポケットからサバイバルナイフを取り出した。
そんなのまで出てくるとはさすがに蓮も思ってもいなかった。
とにかく七海さんだけは守らないと!
「八月朔日っ」
七海さんの声がひきつる。
「おまえら二人でデカイの抑えろっ」
「七海さん!離れないでっ!」
かかってきた二人を相手してもう一人にも目線を向ける。
横から回り込んでナイフを振りかざしてきたのに蓮は七海さんを庇って腕が出た。
「八月朔日っ!!!」
ざくりと腕が熱くなった。
「八月朔日っ!八月朔日っ!」
七海さんの悲痛な声が響く。
その間も攻防を続けていると道の先から人の声と気配がしてきた。
「熊谷さんっ!」
「ヤバイっ」
チッと舌打ちしながら3人が走り出したのに蓮は安堵した。
「八月朔日!八月朔日っ!血が…っ!」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないっ!」
普段からは考えられないような大きな声で七海さんが叫んだ。
「ちょっとっ!どうしましたか!?きゃああっ!」
近所の主婦達が声をあげるとさらに次々と近所に住むだろう人が出てきて騒がれた。
「救急車っ!」
「あ、いや、救急車はいいんで!…七海さん、これで腕の上のほう縛ってください」
蓮がバッグの中ならフェイスタオルを取り出して七海さんに渡すと七海さんは青い顔をしながらも血が滴り落ちる腕の上部を縛ってくれる。
「血…が…」
「大丈夫ですよ」
七海さんの顔が泣きそうに歪んでいる。
怪我してない方の手でよしよしと七海さんのふわふわの髪を撫でた。
血が出てるほうの腕は高めに上げて携帯を取り出した。
「あ~…もしもし?オヤジ?今、ちょっと腕刺されたんだけど…」
一瞬間を置いてから何をやっとる!ばかものっ!っと大きな声が携帯から響いてきたのに思わず蓮は携帯を耳から離した。
「ついてく!」
病院に行くのに七海さんが蓮の服を掴んだまま強張った顔で離れようとしない。
「…大丈夫ですってば」
ふるふると七海さんが頭を振っている。
警察がきて説明して、相手の着ていた服や最後に名前を呼んでた事とか情報を全部告げたところだった。
「蓮くん、お友達の親御さんに連絡は?」
「あ、してください!」
「オヤジさんは後病院に行かせるから」
「え~…来なくていいな」
現場に来てくれたのが見知った父親の部下だったのについ蓮は砕けた言い方になる。
「八月朔日…?」
「あ、俺のオヤジ警察官なんで」
「……そう、なんだ?…でも…早く病院に…」
「じゃあええと、七海くんだっけ?蓮くん頼むね」
「はい」
救急車を結局呼ばれてそのまま七海さんも一緒に病院へ。
あんなに閑散としてた住宅街はどこに人がいたんだ?っていう位人垣が出来ていた。
まったくだったら声したら出て来いよな、とか余計な事を思ってしまう。
巻き添え食らったら怖いから出てこないってのもあるんだろうけど。
「八月朔日…」
七海さんがずっと蓮の服を握っていた。
「大丈夫ですってば」
「だって血が…こんなに…」
傷口を押さえていたタオルも真っ赤になっていた。
そのまま救急病院へ連れて行かれた。
傷が大きいので縫われるけど、躊躇したのかそこまで傷が深いわけでもなくそれだけ。
処置を終えて出ると七海さんの他に蓮の父親と、七海さんの両親だろう、も揃っていた。
「八月朔日っ!大丈夫か!?」
「大丈夫ですって言ったでしょ?」
「蓮っ!」
父親の大きな声に蓮は肩を竦めた。
「お前一人なら怒るとこだが…まぁ庇ったなら仕方ない」
はぁ、と蓮は溜息を吐き出した。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学