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書記クンは猫かぶり 21

21 蓮(REN)

 「風呂…」
 「あっ!き、今日は風呂ダメって言われたんで!!!」
 「うん。身体拭くだけにするか?でもその腕だと力もまだいれられないからタオルとか絞れないだろ?…それと明日は着替えとか持ってこないと…あとそれ、血ついてるから脱いで。洗濯してもらって明日の朝までに乾かさないと」
 「……はい」
 七海さんに言われて素直に頷いた。
 確かに身体は流したい。部活してるし、汗クサイ…。それに半そでのシャツにも点々と血がついてた。

 さっきは好き、と…好きだから七海さんを守られてよかった、と言いたかったのに…思わぬ邪魔…。いや、七海さんのご両親に邪魔なんて言っちゃいけないけど!
 こうして七海さんの家で、部屋に一緒にいるのが夢心地だ。
 それに『飛翔』が好きな時に見られるし。
 『飛翔』がなかったらこうして七海さんといられる事なんかなかったんだ。
 それに夏休みのお誘いも、何もかも、これがなかったらない事だ。
 本当にあの時書道展に入ってみてよかった!

 七海さんに連れられて風呂場に。
 やっぱ狭いマンションのユニットバスと違ってデカイ。
 ほんと別世界だ。
 だよなぁ~…。すでに七海さんも先生なんて呼ばれている位だし…。
 「あの…七海さん…って…先生?」
 「え?ああ…。書?一応。父親用事でいない時とか俺が代わりに手習いみたりするから」
 「はぁ~…」
 あんな『飛翔』を書くくらいの人なんだからそうだろう。

 「凄いですねぇ」
 「別に?小さい頃からしてるから年数経ってるし、それで必然的に段位はついてくる」
 「いえ、そういう問題じゃないと思いますけど…」
 軽く七海さんは言うけど、違うだろう。
 「シャツ脱いで」
 脱衣所で言われてボタンを外して七海さんに渡すと、血痕の残ったそれに七海さんが顔を顰めていた。

 風呂場でタオルを絞ってくれて上半身を拭いていく。
 ……確かに一人でツライ所はあったか…。
 傷のせいでまだ腕に力も入れられないし。
 ずきずきと麻酔が切れて痛んでいるのも本当だ。
 腕を下げているとキツイ。
 「七海さん…ありがとうございます」
 「ん?………礼なんかいらない」
 つんと七海さんが言うのにくすと思わず笑みが出てしまう。

 なんでこんなに可愛いんだろ。
 右腕が自由にならない蓮の代わりに七海さんが左腕とかを拭いてくれる。
 ……困ったな…。
 抱きしめたくなって怪我した右腕をゆらゆらと動かしてしまうけど、我慢。
 それにしても全然目も合わせない、話もしない、させてくれないだったのに今はなんでこんなに普通だし親身だし、それに…どう見たって好意も見える、よな…?
 間違ってないよな???
 しかもいくら庇ったとはいえ、家にまで連れて来られて…。

 「浴衣」
 身体を拭き終え、七海さんが顔を仄かに赤くしながら浴衣を広げてくれた。
 「…俺着た事ないですよ?」
 「着せてやる」
 そっと袖を通して前で合わせ、腰紐を結ぶのに七海さんが抱きつくようにしてくるのにぐわっと欲情してしまいそうになった。
 ダメダメ!!!
 七海さんを見ないようにして天井に顔を上げ、高跳びの事を考える事にする。
 そうじゃないと勃ってしまいそうだ!
 このままぎゅっとだきしめてしまいそうだ!

 目を閉じてバーを思い浮かべて…。
 でもごそごそと動く七海さんの存在がどうしたって気になってしまう!
 紐を結び終えて七海さんが離れたのに思い切り安堵した。
 ……やばいな…。どうしよう…。
 なんかもうどこもかしこも七海さんが近い。
 さっきだって七海さんから蓮の腕を触ってきて近づいてきたんだ。

 今まで学校でだって七海さんから誰かに近づくとか積極的になんて見た事なかったけど、七海さんから部活する蓮の所に来てくれたり、教室に行ったときも腕引っ張られたり…。
 六平さんにもあんな事してるとこなんて見た事ない。
 いや、蓮が見た事ないだけで、ある事なのだろうか?
 でも頻繁にではないはずだ。
 やっぱりうぬぼれていいはず…。
 それになんといっても『飛翔』が…。

 自分の跳ぶ所を見て書いたといってくれたこれが、七海さんの部屋にどんと置かれていた。
 アレの他には何も書のものは見たかぎり見当たらない。
 アレだけが特別、と言ってもらっているようで…。
 それはただのうぬぼれかもしれないけど。自分のいいほうに解釈する事にする。

 「八月朔日、俺の部屋戻れるか?」
 「え?あ、多分、大丈夫かと」
 部屋は何部屋もあったけど、まっすぐだったし、七海さんの部屋のドアは引き戸じゃなかったので分かりやすい。
 「じゃ、戻ってて。俺は風呂入ってからもどる」
 「…はい」
 たったそれだけの言葉にさえどきどきしてしまう。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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