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書記クンは猫かぶり 24

24 蓮(REN)

 「八月朔日、起きろ」
 七海さんの声にはっとして蓮は目を開けた。
 「…おはようございます」
 朝一番から七海さんが見られるなんてなんて贅沢な。
 七海さんは布団からもう出ていて、蓮の枕元にいた。

 「熱とか、具合悪いは?」
 「別にないです」
 「学校は?」
 「え?普通に行けますよ?」
 「そうか」
 ほっとしたようにする七海のさんのちょっと寝癖がついた髪が可愛い。
 怪我していない方の腕を伸ばして七海さんの髪を撫でた。

 「な、何!?」
 「いえ、…寝癖が可愛いなぁ…と思って」
 くすと思わず笑いが浮かんでしまう。
 「…仕方ないだろ。…包帯、取れかかってる。直してやる」
 仏頂面になっているけれど、照れ隠しだろうか?ほんのり頬がピンクになったのがまた可愛い。

 …朝っぱらからこんなに可愛いの連発で一日もつかな…。
 半身起き上がるとぐちゃぐちゃになっていた包帯を巻きなおしてくれる七海さんの真剣な表情をついじっと凝視してしまう。
 綺麗だよな…。
 朝日で七海さんのふわふわの髪が輝いている。
 ほんと触ってもふわふわなんだ。
 ずっと触れたいなと思っていたんだけど…。

 「な、なんだ?大人しくしてろ」
 「してますよ?」
 包帯を巻いてもらっている腕は動かしていない。動かしたのは怪我してない方の手。
 そっと七海さんの前髪を上げてみたり横をかき上げてみたりと動かす。
 七海さんはそれでもやめろ、とは言わない。
 触っててもいいんだ…、と調子ついてきてしまう。
 髪からそっと手をずらして頬を触ると七海さんが身体をびくっとさせたので手を離した。
 はぁ~…どきどきする。

 「…ありがとうございます」
 「…ああ」
 ちょうど包帯も巻き終えた所だった。
 「…制服のシャツもらってくる」
 「すみません」
 七海さんは蓮を見ないでそそくさと部屋を出て行った。
 どうしよう…?

 なんかまじでもうどうしようもない位に気持ちが溢れそうになっている。
 話す前でさえずっと目で七海さんを探してた。それが『飛翔』のおかげで話すようになって顔を視線を合わせるようになって、さらに触れても嫌がられないし、七海さんからも触れてくれるのに衝動を抑えるのが大変だ。
 しかし怪我はかっこ悪い…。
 この包帯や傷を見る時七海さんの表情が翳るんだ。
 バカだったと本当につくづく反省するけど、でも七海さんには何もなくてよかった、と自分を誉めたい。
 もしこの腕の怪我が七海さんだったらぞっとする。

 「ん?」
 朝っぱらから携帯が鳴った。
 見れば父親からだ。
 「もしもし?ああ、犯人捕まった?あ、そう。え?ああ、全然よくしてもらってるよ?今はちょっとシャツ洗ってもらったから取りに行ってくれてていない。うん。分かってる」
 どうやらずっと署に詰めて帰ってないらしい。まぁ、何か問題あれば帰ってこないのが常だからいいんだけど。
 あんまり迷惑かけるなよ、じゃ、と電話はあっけなく切れる。
 そして切れたと思ったらまたかかって来た。今度は知らない番号だ。

 誰だろう…?
 「もしもし……え!か。会長で、すか!?」
 ひえ!っと直接かかってきた電話に慌てて正座してしまう。
 「怪我は結構縫いましたが大丈夫です。…はい、インターハイまでは治りますので…はい。あ、今、あの、俺…七海さんちにいたんです」
 そこに丁度七海さんが戻ってきた。
 「あ、七海さんに代わりますっ」

 「誰?」
 「会長」
 ああ、と七海さんが頷いた。
 「もしもし?ああ、そうなんだ。昨日の帰りに…犯人は…」
 「あ、捕まったそうです」
 「…捕まったらしいですよ?……うちで送っていきますので大丈夫です。はい、では学校で」
 さすが、七海さんはいたって普通に会長と話しているのに苦笑してしまう。
 蓮はどうしたって緊張してしまって畏まってしまう。
 間近で睨まれたりなんかしたら尻尾巻いてしまうに違いない。

 「学校で詳しく話しを、だって」
 「あ、はい」
 返された携帯を受け取る。
 「犯人捕まった?」
 「あ、そうです。会長の前にオヤジから電話来て捕まったって」
 人相も服装も蓮は全部覚えていたので、それを現場に駆けつけた警官に全部話していたのだ。
 「…そうか」
 ほっとしたように七海さんがほのかに笑ったのに見惚れてしまった。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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