25 蓮(REN) 制服に着替えたけど、七海さんの生着替えがヤバイ。
浴衣姿もヤバイし。もうやばいとこだらけで疲れる。でも見たいし!
蓮は七海さんの着替えが目に入らないように七海さんに背を向けて視界に入らないようにと冷や汗を流していた。
「おはようございます」
着替えを終えて安堵し、七海さんの両親が揃っているダイニング行けば思わずほっとしてしまった。
書道家という家柄だからなのか、お父さんもお母さんも着物だ。
すげぇな…とよれよれの警官の自分の父親と比べれば苦笑してしまう。
「傷は痛まなかったかね?ちゃんと眠れた?」
「はい。大丈夫です」
「八月朔日くん、お弁当よかったら持っていって?」
「え!!!?」
思わず大きな声が出た。
「いいんですか!?」
「勿論」
七海さんと似ているお母さんがにっこり笑ってくれるのに感激してしまう。
「うわぁ…嬉しいです」
ずっと自分で冷凍モノを詰め込んだ弁当だったのでこれはマジメに嬉しい。
「行きは私が送っていこう。泉、帰りは早坂に行かせる。あと八月朔日くんは病院と家に寄って当面必要な物を…。泉と一緒で部屋は狭くないか?」
「全然…。俺は大丈夫ですけど…七海さんは?邪魔じゃない?」
「邪魔じゃない」
「あの…本当にすみません…。帰っても大丈夫なんですけど…」
「だめだ。今朝も包帯があの状態で一人でどうやって巻くんだ?」
七海さんがちろと睨むようにして言った。
「抜糸までは黙ってろ」
七海さんがいいならいいんだけど…。我慢が大変なんだけどなぁ~…とか思ってしまう。でも一緒いたいし黙ってろと七海さんが言うなら黙るしかないでしょう。
家の格付けでいったら蓮は片親でしがない警察の息子だ。それなのに七海さんも七海さんの両親も全然蓮を卑下した様子がないのにさすがに一流の家は違うんだなと思ってしまう。
どうやったって蓮と七海さんは釣り合うはずないのに。
七海さんのお父さんの運転で学校まで送ってもらった。
「じゃあ、帰りは早坂をまわす」
「分かりました」
七海さんが答えているのを蓮は黙って聞いていた。
「ありがとうございます」
「はい。いってらっしゃい」
七海さんのお父さんなんだから、きっと立派な書道家なのだろう。蓮は全然その世界の事など知らないが、気さくで難しいという感じはない。七海さんのほうがよっぽど難しそうかも、と思わずくすりと笑ってしまう。
いや、あの展示会の会場では七海さんもにこやかに応対していたのだからそうでもないのか?
「何?」
「いいえ」
七海さんを見て思わず顔がにやにやしていた。
「……部活も出来ないだろうに…焦んない…か?」
「全然」
あれ…?
七海さんと一緒に車を降りて学校内に入るといきなり視線を感じた。
なんだろ?
「八月朔日?どうかしたか?」
「え?いや…随分見られてるな…って…怪我で?いや、でもニュースとかはオヤジ止めてくれたよな…?」
ニュースなんかで流されたら恥ずかしいだろ。
「ああ。怪我で、じゃないだろう」
くすりと七海さんがほのかに笑みを浮べていた。
「さすが秀邦」
「?」
「八月朔日」
「…え?」
七海さんが蓮の腕に手を添えてくるとさらに周りの生徒の好奇の目が向いているのに気付いた。
あ…そういうことか!
「な、七海さん…?」
「うん?」
七海さんは分かってやってる…んだよな…?
「い、いい、…の?」
「何が?」
くすと七海さんが意地悪そうな笑みで蓮を見た。
何がって…。
まだちゃんと七海さんに言ってないのに。いや、言ったからっていい返事かどうか分からないのに…これじゃその前に公認な感じ…?
会長に副会長に、会計の六平さんに…。
そん中に七海さんと…自分なんかが混じっていいのか?
まだ何も言ってない、始まってもないのに複雑な気がする。だからといって否定するのもしたくはない感じだ。
「…七海さん。インターハイ終わったらにします」
「え?」
「インターハイ終わったら…」
「……………そう?」
分かってる…のかな?
じっと七海さんと視線を合わせた。
今は怪我の事もあるし、なんか自分が中途半端な気がする。
七海さんが見に来てくれると言ったインターハイで自分を試して、ちゃんとしてから言いたい。
あの『飛翔』を書きたくなったと言ってくれた七海さんの気持ちにちゃんと向き合ってからじゃないと許せない気がする。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学