26 泉(IZUMI) カタい…。
インターハイが終わったら?
朝送られて一緒に登校の時点で注目を集めているのに?
泉は目立たないようにと思っていても生徒会役員なんぞをしているし、自分が普通の生徒よりかは見られている事は知っている。
そして高校からの外部生の八月朔日もそれだけで目立つのに。
「おはよう」
そこに丁度会長が三浦くんとやってきた。
八月朔日の腕に視線を向ける。
「…傷は大丈夫なのか?」
「大丈夫です。インターハイまでには治りますから」
「痛い…?」
三浦くんが顔を顰め、心配そうな表情で八月朔日に聞いている。
「全然、大丈夫」
八月朔日は本当に何事もなかったかのように話す。でもあの時の血の量を思い出すと泉はどうしても顔が歪んでしまう。
自分がいたから八月朔日にこんな怪我を負わせてしまったんだ。
「七海さん」
八月朔日に呼ばれて顔を上げた。
「大丈夫ですよ?」
にこりと八月朔日が安心させるようにだろうか笑みを見せるが小さく頷く事しかできない。
そのまま八月朔日と一緒に生徒会室に行って会長に詳細を説明した。
「…分かった。学校側には俺の方から報告しておこう。それで今は七海の家にいるんだな?」
「はい…。俺は別に大丈夫…」
「いや、腕がそれでは何かと不便だろうし、七海も安心出来るだろうからな」
それはそうだけど…。
ちらっと泉は意味深な笑みを浮べる会長をちょっと睨む。
余計な事言うなよ、の意味を込めて。
「七海、アドヴァイスだ。素直に」
「………別にひねくれてるつもりはないですけど?」
「そうか?」
くっくっと会長が笑っている。
「教室に戻っていいぞ。ああ、八月朔日体育や部活は禁止だろう?」
「俺は別にしてもいいんだけど…」
「八月朔日!傷が開いたらどうするんだ!?結構深かったのに…あんなに血が…出てたのに…」
ぐいと八月朔日の胸の辺りをつかんで泉が顔を歪ませると八月朔日が苦笑していた。
「無理しませんから大丈夫です。それで治りが遅くなってインターハイ出られない事になったら俺だって困りますから」
「……うん…ならいい」
ぽんぽんと八月朔日の手が大丈夫ですと泉の肩を叩いた。
「七海の家にいるなら無理しないでもいいしいいだろう。まずはちゃんと治す事だ」
「ハイ」
学校側への説明も会長に任せておけば間違いなさそうで、ただの高校生ではありえない会長には絶対服従しかない。
「よろしくお願いします」
「ああ」
「絶対ムリするなよ?」
「大丈夫ですってば」
1年の八月朔日の教室の前で何度も確認する。
「五十嵐くんに頼んでおこうか…」
「七海さん、大丈夫です。無理しませんから。部活も休みますし、体育も休みます。俺だってインターハイ出られないのは困りますからね。インターハイに出たいです。そして七海さんに見て欲しい」
廊下で頭をつき合わせるようにして小声で会話をする。
「…それはいいんですけど…」
八月朔日がちらっと周囲に視線を巡らせた。
離れた所のあちこちからも八月朔日のクラスからも窺うような視線が突き刺さっている。
「この状況…七海さんはいいんですか?」
八月朔日も正確に状況を掴んだらしい。
「俺はいい。八月朔日は…?嫌じゃない…か?」
多分八月朔日も泉の思い違いじゃなければ同じ気持ちのはず。
まだ言葉こそ貰っていないけれど…。
「嫌なんて!あるわけないです。……俺のほうこそ…七海さんが俺なんかと…いいんですか?」
八月朔日が心配そうにしていた。
「……いい、と言った」
顔を少しだけ俯ける。
「ああ……もう……どうしよう…抱きしめたい…けど我慢…」
八月朔日が手を忙しなく動かしているのに思わずくすりと笑ってしまった。
「いいぞ?」
「よくないでしょっ!」
八月朔日がそう思うのならば大歓迎だ。
……本当にちょっと前までは考えられなかった状況だが、今はもう八月朔日がよければ周りなどどうでもいい。
「あとで様子見に来る」
「大丈夫ですってば」
「………顔を見たいだけだ」
素直に、と会長に言われた事を思い出し、そんな事を言ってみたら八月朔日が頭を抱え込んで屈みこんだ。
「七海さん、一体俺をどうしたいんですか?」
八月朔日の顔が真っ赤になっている。日焼けしてあまり顔色の変化が目立たないのだが、目元まで赤くなっているのに泉は満足した。
「どう、…………思っていると思う?」
ちゃんとした言葉も欲しいが今のどきどきとしたこの感じも悪くない、そう思っている、と心の中で付け加えた。
テーマ : BL小説
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