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書記クンは猫かぶり 33

33 蓮(REN)

 結局七海さんのご両親にも止められて泊まっていく事になった。
 もう慣れてしまった七海さんちのお風呂にさすがに今日は一人。
 毎日あった七海さんの裸にかなり困ってたけれど、触ったり触られたりがないのにちょっとばかり寂しくもある。

 …心臓が壊れそうになるほどで、あちこと撫でくり回したくまる気持ちを抑えるのにはかなり精神力が鍛えられたかもしれない。
 しかし、溜まってるのも事実でまずいなぁとは思う。
 キスも一回したら我慢出来なくて毎日しちゃってたけど、軽くだけ。
 それも押し倒したいとか、もう力が入りそうになるのを必死で我慢していた。
 嘗め回したい、入れたい、と欲求は膨らんでいくばかり。
 七海さんの白い肌と浴衣姿と濡れた髪と、キスの後の表情と…。
 次々思い出しただけで下半身に熱が籠もってしまう。

 だって!高校生ですから!
 そりゃあもう!興味あるに決まってるでしょ!
 しかも好きな人がこんな間近にいて…。
 最初は男なんて…などと足掻いていたけど、やっぱどうしたって止まれるはずない。
 ぶくぶくと蓮は湯船に顔の半分まで浸かった。
 どうしたって何したって七海さんが特別に思えてしまう。

 まだ全然何も話も視線も合った事ないうちから…、あの蓮の不調の時に一言だけで気になって気になってずっと目で七海さんを探していた。
 それがなんともなしで入った書道展で目を惹かれたのが七海さんの作品で、それだけでも運命?と言いたくなる位なのにさらにそれが自分だったなんて知らさせたら…。

 やっぱ運命?
 ぷっと自分で笑ってしまう。
 「好きです」
 小さく呟いてみる。
 一度五十嵐に言えと言われて言ったら聞こえない、聞いてないと七海さんに拒否された。
 気持ちに嘘はないけど…強制のように思ったのだろうか?

 それでも七海さんが拒否じゃないと言ってくれたのにほっとして、それでつい止まらなくなってキスしちゃったんだけど。
 だって七海さんもいい、って言ってくれたし!
 …七海さんの心臓もどきどきしてた。
 か~~~っとやっぱり好きだ、という気持ちが溢れそうになってくる。
 何度も言いたくて口を開きかけたけど、七海さんからもインターハイ終わってから、と言われてるし!とにかく今はまだ言えない。

 なんか…あっちもこっちも我慢だらけだ…。
 苦笑しながらそして自分の傷を見、そしてまだ赤くなっている傷をそっと撫でた。
 こんな傷が七海さんにつかなくて本当によかった、と思う。
 そしてざっと湯船から上がり脱衣所で着替える。
 髪は短いのでタオルでがしがしと拭いただけで半渇きだ。
 そしてずっと借りて着ている浴衣に手を通した。

 今日は七海さんがここにいなくて自分で着てみる。
 …なんかやっぱりどうしてもよれっとした感じはするが、まぁいいだろう。
 いつも腰紐を結んでくれる時には七海さんの髪を触るのが楽しみだったのに、今日はそれもない。
 ……今までが破格だったんだ。怪我の功名ってほんとだよな、と思わず納得してしまう。
 「お風呂お借りしました。…あれ七海さんは?」
 「はぁい。泉?自分の部屋行ってるって言ってたわよ?」
 「あ、そうですか?じゃあおやすみなさい」
 「泉にもさっさとお風呂入っちゃってって言ってね」
 「はい」

 もう案内されなくても広い七海さんの家でも七海さんの部屋が分かる。
 ゆっくりと歩きながら七海さんの部屋に向かって、そしてノックしてドアを開けた。
 あ…。
 七海さんが座卓で筆を握っていた。
 初めて見る姿に蓮は立ったままで魅入った。
 真剣な眼差し。ぴんとした背筋。そこには普段の七海さんではなくて、そう、泉華先生がいた。
 これが書家としての七海さん…?
 息を呑んでただ蓮は立ち尽くし、そして魅入った。

 「何してる?ぼうっと立ったままで」
 くすと七海さんが蓮を見て笑ったのにほっと安堵した。
 「それに浴衣の着方…よれよれじゃないか」
 「う…」
 自分でも分かっているけど。
 「…何書いてたんですか?」
 「ただの手習いだ。何という事じゃない」
 七海さんが立ち上がって蓮の前にくると蓮の腰紐を解き、そして締め直してくれる。
 解かれるのにはかなりどきっとしてしまった。

 「あ、あの七海さんも…風呂…ってお母さんに…言われました…」
 「ああ」
 七海さんが道具を片付け始めた。
 「テレビでもなんでもつけてていいぞ?」
 「あ、はい」
 テレビでもとは言われたけど、やはりここは『飛翔』でしょう。
 なんといっても自分ちに帰ったら好きな時に見られなくなってしまうんだ。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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