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熱視線 協奏曲~コンチェルト~5

 エージェントから話はすぐに来て、日本公演は4月との事だった。
 あと3ヶ月。
 その頃にはもう明羅は学校を卒業もしているわけで、いったい自分は何をしているんだろうな、と思いながらパソコンに向かっていた。
 生方の持ってきた曲の依頼だった。
 自分の物でいいのならば断る必要はない。
 それがまたきっと怜のためにもなるだろうし、自分で稼げれば怜に迷惑をかけなくてもいいのだ。
 生方さんが全部いいようにしてくれるし仲介もしてくれているので安心できる。
 怜の音があれば曲はすぐに出来る。
 「いいのかなぁ……」
 ご飯の用意を手伝いながら怜と一緒にキッチンに立っていた。
 「何が?」
 「え?全部…」
 「全部…?」
 「俺、怜さんいないともうだめだよ…?」
 「大歓迎だな」
 簡単に怜が言った。
 「俺もだな。明羅がいないと多分もう何もする気が起きないかもしれない」
 「……うん。同じ」
 明羅は怜を見て笑顔を浮べた。


 でも怜に依存しすぎてると思う。
 宗が自分で会社を立ち上げるつもりだと言った時自分は何しているんだろうと明羅は思ったのだ。
 全部怜に迷惑かけてこのまま…?
 曲だって怜がいなきゃ出来ないし、なんでも怜に頼りきっている。 
 いなければ不安で、いてくれるだけでいいのだが、じゃあ自分は怜の何の役に立っているのか。
 曲作ったって作っただけで、CDにしたのは怜だし、協奏曲だって親のおかげなのだろう。
 自分は…?
 進学も決めないでただこのままいるのだろうか?
 生方が持ってきてくれた曲作りを仕事と呼べるようになるのか?
 そんなの知らない。
 だってそれだって怜の音がなければ出来ない事なのだ。
 何をしてどうなっていくのだろう。
 宗の将来を見据えた言葉に自分がひどく中途半端に思えて仕方ない。
 自信をもってこうしたい、という事が明羅にはないのだ。
 あるのはただ怜の傍にいたいだけ。
 でも怜さんは?
 こんな自分じゃきっといつか負担になって嫌になってしまうかもしれない。
 そんなの嫌だ。
 

 「どうした?」
 「え?ううん。なんでもない。俺、ご飯食べたらもうちょっとしてくる」
 「……しすぎじゃないのか?何そんなに焦ってる?」
 怜さんには分かってしまうんだろうか?
 「そんな事ないよ」
 「…そうか?根つめるなよ?それでなくともあんな大曲仕上げたんだから」
 「音はいくらでも湧いてくるから」
 それは本当。だって怜さんの音が毎日聴けるから。
 「…ならいいけど」
 怜はあまり納得していないようだった。
 そう、明羅はここ最近ずっとパソコンに向かっていたのだ。

 
 「どうした?最近ずっとおかしくないか?」
 何故か宗は朝も帰りも電車で一緒に帰ってくる。ずっと友達の家にいるらしい。
 「うん…宗はさ、会社起こすって言っただろ?俺は何したいのかな、何やってるんだろう、と思って」
 思わず学校からの帰りの電車で宗にこぼしてしまった。
 怜に言えなくてもこういう事を宗には言えるのが不思議だ。
 「兄貴には言ったのか?」
 言えない、と明羅は顔を俯け、首を振った。
 電車が駅に着いた。
 電車を降り、宗と別れる所で立ち話する。
 「別に急ぐ事ないだろ。それでなくとも桐生は十分すごいと思うけど?」
 「怜さんにも何を焦ってる…とは言われたけど………すごい?何が?」
 「あんな曲作れる奴がすごくないと?」
 「だってあれは怜さんがいたから出来たんだ」
 「だから別にそれでいいんじゃねぇの?」
 「でも…。なんでもかんでも全部怜さんの負担になってるし、迷惑かけてる」
 宗が呆れている。
 「桐生それ兄貴に言った?」
 「怜さんは負担じゃないし、迷惑でもないって」
 「なんだ。じゃ、それでいいだろ」
 「だって俺、何も出来なくて…」
 「兄貴は別に桐生でそれでいいと思ってるさ。かえって何も出来ないほうがいいとも思ってるだろ」 
 「…なんで?だって…ほんとに役たってないよ…?」
 「じゃ、桐生は兄貴が役立つから一緒にいるのか?」
 違うっ!大きく頭を振った。
 そして思わず涙がせり上がってきた。
 「おい…」
 「ぅ…」
 宗が思わず明羅の肩に手をかけた。
 「俺、兄貴に怒られるだろうが…」 
 「う…ごめん…でも怜さん、お金もなんでも全部出すんだ。俺出そうとしてもいらないっていうし」
 「言うだろうな。兄貴親父の会社の地主だぞ?」
 「え?」
 「兄貴の母親の方の祖父さんから遺産相続で受け継いでるから。だから本当は兄貴は何にもしなくても暮らしていけるはずだ。親父の会社つぶれなきゃな。桐生も気にしなくていいだろ。俺が言うのも変な話だが」
 明羅の肩を撫でながら宗が明羅を宥めていた。
 
 
 

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