42 泉(IZUMI) 八月朔日はなんとも思わないのだろうか…?
ずっとまともに話もしてないし二人きりで会ってもないのに…。
家にいた時は毎日してたキスだって出来ないのに…。
そんなにしたい、とは思わないのだろうか…?
今度は八月朔日の家に泊まりに来てと言ってたけど携帯も知らないし、学校を出たら連絡のとりようもないじゃないか。
夜、声を聞けるだけでもいいのに…。
でもそんな事を言ってインターハイに向けて練習中の八月朔日の邪魔をしたらいけない。
ほら!また我慢出来なくなってきてる!
だからダメなんだ!
イライラしてつい隣に立つ六平の足を思いっきり踏んでやる。
「……………お前さ。いい加減にしろ?ホントに!お前に当たられる俺の身になってみろ」
「知らない」
ちょっとばかりスカッとするけど、八月朔日が足りないのは埋まらない。
「ほんとこんな奴のどこがいいんだ?八月朔日は?あいつはマゾか?ああ、いや…スポーツ選手ってのは基本マゾだな…」
「どういう意味だ?」
「お前が可愛くなんて到底出来ないだろうという事だ」
「そんな事はない。八月朔日は可愛いって……」
はっとして口を抑えた。そんな事に対抗して六平に対して何を口走ってるんだ!?
「ほぉおおおお~~…そりゃ大物だ。さすがだ八月朔日…」
感心したように言う六平を今度は蹴ってやる。
「こら!そこ何してる!」
「すみません…」
体育の授業中で、怒られてしまい六平と揃って肩を竦めた。
怒られるなんて!
六平の目がお前の所為だと訴えている。それは分かっているが泉はつんとそっぽを向いた。
「ちょっと来い」
昼休みに六平に腕を引かれて教室の外に連れて行かれる。
「どこに?」
答えない六平は1年の教室に向かうと廊下から八月朔日を呼んだ。
「ちょっと!六平!何!?」
八月朔日の邪魔しちゃいけないのに!
邪魔しないって決めたのに!
「俺だけ?」
八月朔日が頭を傾げながら廊下に出てきた。
「七海さん?腕つかまれてどうしたの?」
「八月朔日、七海連れてちょっと来い」
「六平!」
ぽいっと泉を八月朔日の方へと押されて八月朔日が泉を受け止めた。
「はぁ…」
八月朔日は大人しく六平の言う事を聞いて泉の腕をがっしりと掴んで六平の後ろをついていく。
着いたのは生徒会室だった。
六平は生徒会室の鍵を借りていたのかがちゃりと開けると泉と八月朔日を中に入れ、そして鍵を泉に渡した。
「あとで鍵は会長に返しに行け!八月朔日!」
「はいっ」
「コイツをどうにかしろ!…ったく!俺はいい迷惑だ!」
じゃあな!とバンッ!と思いきり力を入れてドアを閉め、六平がいなくなった。
「七海さん…」
八月朔日と二人だ…。
「六平さんに迷惑って……」
「迷惑なんかかけてない」
「……迷惑って踏んだり蹴ったり…ですか?」
「なんで知って…って五十嵐くんか!」
あのお喋り!五十嵐くんに話してるんだな!
「…どうして?」
八月朔日が泉の両肩に手を置いた。
「…ちょっとイライラしてたんだ…」
「…どうして?」
さらに顔を覗きこんでくる。
何日かぶりの近い八月朔日に心臓が大きく鳴っていた。
「ね…七海さん…抱きしめてもいいですか…?」
「………いい」
八月朔日からそう言ってくれるならいいに決まっている。
八月朔日が泉の事を邪魔じゃないなら…。
「…………足らなかった…」
「え?」
そっと泉も八月朔日の胸に手を添えた。
すると八月朔日がさらに力を入れて泉を抱きしめる。
八月朔日…。
「全部が足らなかった…」
八月朔日が小さく呻くように呟いた。
「何…が?」
「七海さんが」
え…?
「七海さんがもう俺の事嫌になったかな、と思って…」
「なんで!?」
「え…?えっち下手だったのかな?とか…」
「んなわけあるか!」
「…あ?……そうなの…?ちゃんと七海さん気持ちよかった…?」
「おま……」
こっちはインターハイの邪魔しちゃ悪いとか考えてたのに!
「キスしたかった…毎日してたのに…抱きしめたかった…」
なんだ…八月朔日もそう思ってくれてた…?
「邪魔に…ならないよう…我慢してたのに…」
「何を?」
「お前の…インターハイに向けての邪魔しちゃいけないと思って…。怪我させて邪魔して…家に連れて来て…八月朔日はいいって言ったのに無理に…」
「無理なんかじゃないです!俺だって七海さんといたいと思ってるんですから!」
…そうなのか?
「…でも…一緒にいたくない、と…言った」
「あれは!七海さん目の前にして我慢するのがキツかったからです!……七海さん…キスしていい?」
なんだ…一緒にいたくないはそれだけか…それに…キスなんか、いいに決まってる。
いちいち確認になくてもいいのに、と思いつつこくりと小さく泉は頷いた。
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