51 泉(IZUMI) 柏木と八月朔日が用意してくれた夕ご飯を食べて、テレビみたり、トランプしたりと皆で時間を過ごす。
でも時計が10時になった所で会長が部屋に引き上げるというと自然皆それぞればらけた。
どうしよう…?どきどきする。
階段を上っておやすみ、と六平と五十嵐くんと別れ、ふと後ろを振り返ったら六平が五十嵐くんの肩を抱いて部屋に入っていったのが見えた。
「!」
八月朔日に手をつかまれて泉はびくんとした。
「…いい?」
手を繋いだのは初めてで勿論ダメなはずもなく泉は小さく頷く。
どうしよう…どきどきがハンパない。
今日の大会のジャンプの事を泉がどう思っていたか八月朔日には話していない。
でも八月朔日もちゃんと泉が分かったと分かってくれているはず。
人にあんなに感動するなんて…。
繋がれた八月朔日の大きい手にぎゅっと力を込めた。
すると八月朔日も力を入れ返してくれる。
そのまま部屋に…。
手を繋いだまま八月朔日に誘(いざな)われベッドに泉が座らせられた。
そして八月朔日が床に膝をついて泉を見上げる。
今…?
「七海さん……」
「ちょ!ちょっと…待って…」
「え?…まだダメ……ですか……?」
しゅっとしたように八月朔日が眉尻を下げた。
「ち、ちがう…そうじゃ、なくて……」
かぁっと全身熱くなってくる。
「し、んぞう…壊れ…そう…」
くすっと八月朔日が笑った。
「俺もです。…ちゃんと言うって決めてたのに、なんて言おうか言葉を決めてなくて今実はすんごい焦ってます」
「え?」
「とにかくインターハイ!インターハイ終わったら!ってそればっか考えてて肝心の言葉考えてなかったんです。さっき柏木と料理しながらそれに思い当たってどうしようって焦って焦って…結局まだ決まってません…。……気の利いた事言えませんけど…いいですか…?」
「……いい」
泉はこくりと喉を鳴らして小さく頷いた。
「七海さん………好きです。他の誰でもなくあなただけです。可愛いとこも綺麗なとこも…俺を見てくれているとこも、ちょっと強引なとこも、料理出来ないとこも…全部…」
「………なんか最後の方いらない気がするけど?」
「え?そうですか?可愛いなぁと思ってたんですけど」
「…八月朔日がいいならいいけど…」
こくんと泉はもう一度息を呑んだ。ちゃんと返事するって自分でも言ってた。それを八月朔日も分かってるのに急かすようなことを八月朔日はしない。
「俺、も…八月朔日が…好き…だ」
「七海さん」
ぎゅっと八月朔日に抱きしめられた。
ああ、ちゃんと、やっと言えた。
「好きだ…ずっと…。八月朔日の腕の怪我…も本当は俺は嬉しいって…思ってるんだ…それでも…いいのか?」
「勿論です!七海さんはいつも傷見て顔を顰めるから…」
「そうだ。八月朔日に傷負わせた自分は許せない。でも…八月朔日がしてくれた事が嬉しいといつも思ってるんだ」
「よかった…」
こんな事思ってる俺によかった?
「そんな事言うの八月朔日だけだ」
「そうですか?」
「そう……いいけど…八月朔日」
「はい?」
はい、じゃなくて。
泉は自分から八月朔日の顔を手ではさんでそしてキスした。
八月朔日がすぐに舌を泉の口腔に差し込んできたのに自分から絡める。
足りなかった…ずっと。
やっと…気持ちを伝えられた。変に意固地になっていたバカな自分がなくなった。
「七…海さん…」
はぁ、と八月朔日が熱い息を漏らしたのに泉もぐっと熱がせりあがってきた。
「今日…俺…表彰台の一位は取れませんでしたけど…」
泉は首を振った。
「あと2本後だったら一位だった」
「…………」
八月朔日がぐっと、泉が苦しくなる位強く抱きしめた。
「八月朔日は頑張った。俺が分かってる…。一位なんてどうでもいい…なんて言っちゃいけないんだろうけど…」
「あの!」
「ん?」
「他の人が跳ぶとこも見ました?」
「見たけど?」
「……………」
八月朔日が眉間に深い皺を浮べた。
「なんだ?その顔は?」
「他の人の見て…七海さん…書きたい…って思った?」
何の心配かと思ったら!
思い切り泉は笑ってしまった。
「七海さん!だって!俺から見たって綺麗なジャンプだな、って思ったのいっぱいあったし…」
「ないよ!八月朔日だけだ。余計な心配だ!……バカだな…………蓮、俺が好きなのはお前だけなのに」
「七海さんっ!」
がばっと八月朔日が抱きついてきて、泉は髪の短い八月朔日の頭を撫でた。
「綺麗だった…八月朔日が一番綺麗なジャンプだった」
泉の目が奪われるのは八月朔日だけなのに。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学