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2012.09.23(日)
「…やべ」
「宗…?…明羅…?」
怜の声に思わず明羅は宗の後ろに身体を隠した。
「桐生、それはマズイだろ。兄貴、俺無実だからな」
宗は怜に向かって手を上げていた。
「…どうだか」
怜の声が低い。怒ってる…?
「ほんとだって。桐生泣いてるのだって兄貴のせいだから」
「明羅」
怜の声が怒っている。
嫌われた…?呆れた…?
「や、怜さん…」
怜の腕が明羅の腕を引っ張った。
「兄貴、桐生安心させてやれよ」
「…なんでお前にそんな事言われなきゃないんだ」
「とばっちりがこっちにくるからだろ。まったく。じゃ」
宗はいつも行く方向に行ってしまった。
「明羅」
ぼろぼろと明羅は涙を流した。
怜の声が怒ってる。
「怒ん、ないで…嫌い、になら、ないで…」
「なるかっ。とにかくこい」
怜は泣いている明羅の頭を抱えるようにして家の方に向かった。
「怜さ、ん…呆れた…?俺…」
「だから、なんでそうなる…?」
怜が頭を抱えた。
「いつ俺がそんな事言った?……いいから、まず家入るまで黙ってろ」
怜の呆れたような声にまた明羅は泣きたくなってくる。
ひくっとしゃっくりまで出てきた。
「…お前は何がそんなに不安なんだ?」
家に着いて怜が明羅を抱きしめた。
「ここ最近ずっとだろう?俺には言えなくて宗には言えるのか?」
憮然とした声。
「や…嫌い、ならない……で」
「なるか!それを言ったらお前の方が嫌になったんじゃないのか?」
「絶対に…ない…。俺、怜さんいないと…だめだから…」
「だから俺もだ、って言っただろ?今だっていつもよりも明羅の帰りが遅くて、それだけで出て行ったばか者だぞ俺は」
「怜さん」
ぎゅっと首に抱きついて泣いた。
「だって…宗が…会社、自分で作るって…。俺、なにしてんの?…おれ、怜さんの迷惑にしか、なってない、のに…」
「だから、いつ迷惑だって言った?まったく、何悩んでるんだか…。会社作ればいいのか?じゃあ作るか?俺社長でお前秘書な」
「何、言って…」
「する気ならいつでもそんなの出来る。別にしなくていいからしないだけだ。別に俺は膨大な金なんていらない。大きな会社もな。好きな奴と一緒にいられればいい。お前だって知ってるだろ?名声が、金が必要か?まぁ生きていくには金は必要だが。今の所俺は困ってはいない。お前が迷惑?明羅の方が迷惑な話だろう。こんなに独占欲の塊に惚れられて」
「俺、のほうが…だから」
「ばか。お前よりも俺の方がおかしいんだよ。雁字搦めにして俺から離れないようにしてんだから」
「ちが、う…」
「違わねぇよ。その証拠にお前はそうやって悩んでるんだろ?」
「ちが…う。俺、何も出来ない、から…怜さんの負担、とか…迷惑で…飽きられて、嫌われる、の…やだから…それで…」
「だからなんねぇ!って言ってるのに…。信用ないのかね?」
「ちが…う」
「困った子だな…。宗とは本当に何でもないんだろうな…?」
「ない。怜さん、だけ…なんだ…」
怜さんが信じられないわけじゃない。
好きな事やって自由にしてて、いつでも怜が傍にいてくれて、余りにも満ち過ぎてきっと不安なんだ。
今のこれが崩れたら…?
それが不安で仕方ないのだ。
今まではずっと追い求めるだけで、それに応えられた事がなかったから、だから不安なんだ。
「……怖い、んだ…と思う…」
だってずっと、一人だった。
親は忙しくて。
ほとんど家にいない。
小さい頃は夏休み以外は親の所に行ったりしたけどやっぱり忙しいから一人で、それが普通だったのに、今が全然違いすぎて。
怜がしがみついている明羅の身体を持ち上げてリビングのソファに運んだ。でも離れたくなくて、そして馬鹿みたいに一人でぐるぐるしてたのが恥かしくなって顔を上げられない。
今はこうしてくれるけど、もし怜の手が離れてしまったら?
きっともう耐えられない。
いつでも差し伸べられる手に縋りすぎている。
その手がなくなってしまったら…?
それが恐かったんだ。
だから負担になる自分が、何も出来ない自分が、自由にしてる自分が許せなかった。