55 泉(IZUMI) 会長の別荘から帰ってきて二日後、泉は自分の部屋で正座をして目を閉じていた。
父親が海外で書の個展を開くのに両親はその準備に追われ、もうすぐ出発する。
泉ー!と呼ばれて部屋を出た。
「何?」
「じゃ行ってくるけど。本当に家政婦さん頼まなくて大丈夫?」
「ああ。八月朔日が来てくれるから」
「あのね。八月朔日くん家政婦さんじゃないでしょ」
「別に家政婦だとは思ってないけど、行ってらっしゃい」
「帰ってくるのは10日後だ。あと連絡入れるが、何かあったときもすぐに連絡をよこしなさい」
「大丈夫でしょう」
「…ホント冷めた子ねぇ。八月朔日くんはあんなに可愛いのに」
泉は肩を竦めた。
両親を見送り、泉は作務衣に着替えた。
頭にずっと浮かぶ文字がある。
それを吐き出すために。
書道教室で使っている敷地内の建物に向かい、大きな紙とバケツに墨を用意した。
もうすぐ蓮が来る。
用意を終えた所で広げた大きな紙を前に正座し、またも静かに泉は目を閉じた。
あの時の蓮のジャンプ。そして蓮の目線の先。
脳裏にくっきりと残っている。
インターホンが鳴って泉はすくっと立ち上がると玄関に向かった。
「七海さん?」
「こっちだ」
蓮を書道教室の方に連れて行くと、蓮は何も言わずについてくる。
蓮のこういう所が好きだ。
いつも泉のしたいように蓮はさせてくれる。自分を押し付けてくる事がないんだ。
座布団を差し出すと蓮が何も言わずに静かに座る。
泉はまた紙の前に座って目を閉じ、顔を俯けた。
紙の上。
だがここに…。
蓮の跳ぶ姿。目に映る映像。
泉はすくっと立ち上がってバケツに挿していた大きな筆を取った。
たっぷりと墨を含んだ筆の重み。
勢いをつけて一気に書き上げる。
誰のためじゃない。自分が書きたいんだ。
だが、そう思うのは蓮を見て、だ。
一気に書き上げると筆をバケツに戻す。
そしてちょっと離れて出来栄えを見て泉は自分でも納得する。
この場に蓮がいた事を一瞬忘れてて、はっとして蓮を見た。
「な、なうみ…さ、ん…」
蓮が座布団から立ち上がってきて泉を力いっぱい抱きしめてきた。
「蓮?」
蓮の顔を見上げると目が潤んでいた。
「なんで?…どうして?」
「何が?」
「どうしてこの字?」
「どうしてって……書きたくなったから」
蓮と泉は今、泉の書いたばかりのまだ濡れててらてらと光っている墨の字を見た。
泉が書いたのは『蒼天』だった。
「…俺…あん時…俺の見える空を七海さんに見せたいなぁって思ってた。真っ青な綺麗な空だったんだ…」
蓮の言葉に泉は息を呑んだ。
まさか?あの時、あの瞬間に蓮がそんな事思ってたなんて知らなかった。
「…見た、んだ…。お前が…跳んで、宙に浮いてる時に上見て笑ってた。……何見てんだろうと思って…俺も上見て……」
「七海さん……同じもの見えてた、んだ…?」
ぎゅっとさらに蓮の腕が泉を締め付けてきた。
「なんで…?もう…」
蓮が顔を泉の肩につけながら腕でぎゅうぎゅうに締め付けてくる。
「苦しい。離せ」
「やだ」
泉は蓮の背中をぽんぽんとあやすように叩いた。
「なんで?俺…全然書道なんてホント分かんないのに…七海さんの書いたものに泣きそうになる…」
「俺は蓮のあのジャンプに泣きそうになるけど?」
蓮が顔を上げて泉を凝視した。
「キスしていい?」
「いちいち確認しなくていい。……けど、今は顔に墨ついてないか?どうしたって飛び散るから」
「ついてないです。いつもの綺麗な七海さんの顔です」
蓮が何度も啄ばむようにキスしてくるのに笑いが出てくる。
「なんで笑うの?」
「いや、可愛いな、と思って」
「……なんかいっつも七海さん余裕だ」
「………そんな事はない。……俺が書きたいって思うのはどうやら蓮限定らしいから…そんな相手に余裕なんかあるわけない」
「嘘でも嬉しいです」
「嘘じゃない」
額を合わせてくすくすと笑った。
「これも七海さんの部屋に置く?」
「そのうちな。またどこかに出展するかも。自分でも満足だ」
「近場でお願いします。通わないといけないから…。あ、でもどうしよう…?一人でコレの前で照れてたら絶対変な奴ですよね?『飛翔』の時はただホントに惹かれただけだったけどコレ見たら絶対怪しい感じになりそう…」
蓮が真面目に悩んでるのがおかしくて泉はまた笑ってしまう。
「七海さん笑いすぎです」
その時は一緒に見に行けばいい。
蓮が跳んでいる所を見るのがもっと増えれば慣れていくのだろうか?
いや…ほぼ毎日のように見ている蓮のジャンプに目を奪われて泣きそうになっているんだからいつまで経っても慣れるなんて事はないのかもしれない。
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イラストいただきました~^^
線画は新しくリンクさせていただきました
ういちろさんです^^
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そして塗りはばけもぐさんがしてくださいました~♪
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ありがとうございます~m__)m
続きに拍手コメお返事です^^
mm3様
蓮頑張りました(笑)
そして勿論みんなでお洗濯でした~(^m^)
ありがとうございます~^^
MR様
名無しさんMRさんでしたか(笑)
いつもは分かるんだけどな~^^;
最近名無しさんも多いから気付かなかった^^;
目覚めるような内容、朝っぱらからで
スミマセン(笑)
ありがとうございます~^^
S様
注意事項確認でいざ!(笑)
7のエンジンは温まってますね~(^m^)
いつでもかも~ん?(笑)
ありがとうございます~^^
nck様
柏木もきっとお寝坊さんでしょう~!(笑)
どこの部屋もきっと遅いですねwwww
ありがとうございます~^^
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