夏休みお泊り会編 1 敦(ATSUSI) 「すっげ」
夏休みに入って会長の別荘にと誘われてやってきたのは、会長、三浦、ゆき、生徒会会計の六平さん、五十嵐、書記の七海さん、それに後から合流で八月朔日だ。
七海さんと八月朔日がそんな事になっていたのは始めて知った。
だが人の事などどうでもいい。ゆきちゃんさえいれば敦に問題ない。
あ!けど八月朔日は貴重な普通の人間だ。なにしろ自炊だ!と言い張った会長様は料理なんて出来るはずもなく、その会長様と一緒に育った三浦も同様。六平さん七海さんはした事なくて、五十嵐も家政婦が来る生活。
…ゆきは不器用。
その中で八月朔日はいたって普通な感覚の秀邦においては貴重な存在だ。
「コレ別荘ってのと違くねぇ?」
隣の如に耳打ちする。
「……違うと思う」
如も頷く。
瀟洒な洋館。別荘というよりは小さなホテルだ。
「好きな部屋使ってくれていい。翔太、お前はこっちだ」
中に入って部屋を覗いていく。どうみたってホテルだろう。
部屋もそう。バス・トイレ完備だ。
「ゆきちゃん、このへんの部屋でいい?」
ベッドが並んでるツインルーム。1階の東側に会長達が消えたので西側の適当な部屋で如に聞いてみる。
「な、なんで?敦と一緒の部屋なんだ?」
眼鏡を押さえながら仄かに頬染めてそんな事言われたって…。
「あのね?なんでわざわざ別の部屋?せっかく如と一緒に大っぴらにいられるのに」
「………いつだって一緒いるだろうが」
「やぁね~!イチャイチャできるって事でしょ」
「し、し、しない!」
「だめぇ。はい。ここの部屋決定ね!」
如と自分の荷物を降ろしてそのまま如の腕を引っ張って部屋を出る。
ホント素直にうん、って言えばいいのに。でも照れてるのも可愛いから別にいいんだけど。
「柏木」
リビングというよりかは多目的ホールとでも言った方がいいソファやテーブルが置かれ、テレビにカードゲーム、チェスに将棋や囲碁など、あるところを見てたら会長に呼ばれた。
「食材は入れてもらってたから」
そう言って会長に連れて行かれたところはキッチンというよりかは厨房だ。
そりゃ確かにホテルみたいな別荘ならそれも分かるけど、どうにも感覚の桁が違いすぎる。
「適当に頼んでおいた」
冷蔵庫も業務用で大きな扉をあけてみればどう見ても高そうなステーキ肉やら新鮮な野菜やら色々入っている。
どう見たってコレの値段も桁が違うぞ?
如も隣から覗き込んでそして顔を合わせた。
八月朔日の合流は明日なので今日は一人で飯の準備?7人分?
………なんで来ちまったかな?
「敦…手伝う?」
一人でばたばたしていると如が七海さんと一緒に姿を見せた。
二人にコレ剥いてとジャガイモ渡せば手つきが怖くて見てられない。
やっぱりいい、と二人をキッチンから追い出す。
一応気にしてるのか、六平さんと五十嵐も来たけど同様。会長と三浦はただ窺いに来ただけ。
はぁ、と溜息が出た。
翌日、大会を終えたばかりの八月朔日には悪いけど、手伝ってもらうとさすが!思わず感謝してしまう。
「今日はお祝いにステーキだな!」
「なぁ、柏木…この肉…」
八月朔日が恐る恐る口にする。
「会長様がご用意してくれてたらしい」
「今日は肉か?」
そこに会長様が顔を出してきた。
「俺はレアで、翔太はミディアムレアだ」
「知るかッ!ウェルダンだウェルダン!ご自分で出来もしないくせに何言ってんですか!ほんっともう!」
「折角のいい肉をウェルダンは勿体無いだろう?」
ぶつぶつ言いながらも自分で出来ないからかそれ以上強く言いもしないで会長様がいなくなる。
「………柏木すごいなぁ?会長にそんな口きくなんて」
「ああ?当然だ!自分で出来もにねぇのにえばるな!」
くっくっと八月朔日が笑っている。こいつは人あたりもいいしいい奴だ。
「…今日の大会、すごかった」
「…そう?ありがとう」
照れたように笑う八月朔日に思わず抱きついた。
「お前、素直で普通でホントいい奴だな!」
「そう?」
「だってあいつらおかしいだろ?」
「おかしい……」
八月朔日がまだ笑っている。
「………何してんの?」
如の不機嫌な声に後ろを振り向くと七海さんと二人でむっとした顔で立っていた。
「え~!八月朔日っていいやつだなぁ!と思って」
つかつかと七海さんが来て八月朔日に抱きついていた敦の手を振り払う。
「七海さん」
八月朔日が嬉しそうだ。それはいいけど…七海さんって大人しそうと思ってたんだけど、コレ違うよな?
ぎっと睨まれたのに敦が肩を竦めると今度は如が敦の頬っぺたをぎっちりと引っ張ってきた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学