夏休みお泊り会編 4 如(YUKI) 五十嵐くんの騒ぐ声が階下にも響いてきていた。
そんなに騒ぐ位か…?
密かに如もドキドキしてしまっている。
隣の敦を見れば全然平気そうなのが救いだ。
一周して帰ってきた五十嵐くんは半泣き状態。
…はいいけど、何でウサ耳?
「ハイ、次、二宮柏木組」
「へ~い。如」
敦が手を差し出してきたのに思わずそれを握ってしまった。
「じゃ、いってきま~す」
蝋燭を敦が持って出発。
ちょっとばかり怖い、な…。さすがに暗い明かりのない廊下とかは気味悪い。
「はい、キッチン到着。ゆき、そこスポンジ置いたとこだから気をつけて?」
「あ、ああ…」
敦は全然いつもと変わらない声。
「あ、花のピンよ?ゆきちゃんつけて?」
「ああ?何で俺が?お前の方似合いそうだろうが」
「ええ?俺?んなわけないでしょ」
「いやだ」
「如~」
「……じゃあ、じゃんけん」
蝋燭を置いてじゃんけん。でも片手は繋いだまま。
「あ~~…」
「ほらな?」
負けたのは敦だ。
仕方ねぇな…と敦が自分でピンを前髪に止める。
「敦……可愛い」
「そゆこと言う口塞いでやるよ?」
……黙っておこう。
手を繋ぎ直して階段を上って二階へ。
「あ、ここの部屋みたい。………あけるよ?」
がばっと敦がドアを開けた。
何も…。
「うわああああ!」
「おおおっ!」
声が重なって如は思わず敦に抱きついた。
「うわっ!びびった!なんだ、シーツかぁ?なんかに被せたのか…」
敦も少しはビビッてたのか?
「敦もちょっとは和臣の話信じてるんだ?」
「…信じちゃいねぇけどぉ…古典的だけど、暗がりに真っ白なシーツはビビるな…」
「…確かに」
「だれだぁ?こんなのしたの…ったく」
ぶつぶつと敦が呟いている。
「あ、目印発見………いいけど、会長様何考えてるんだ~?なるほど、それで五十嵐がアレか」
「ん?」
「ゆき、じゃんけん」
花のブレスレットを前にまた敦とじゃんけん。
「………俺がつけたって俺は萌えない」
「当たり前だろうが。じゃ勝てば?」
「よし!次はウサ耳だろ?そこは勝つ!!!」
じゃんけんに気を取られつつまた廊下に出る。
しかし暗くて長い廊下はちょっとやっぱり不気味だ。
突き当たりの鏡が不気味に廊下の窓からの差し込む月明かりに反射している。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆき…」
「ん?」
敦がなんかどもってる。
「どうしたんだ?」
敦の顔を見上げた。夜の光りでも敦の髪は明るい色で綺麗に見える。
「い、いや…?なんでも、ない…かなぁ~~?」
敦が如を見て引き攣った笑いを浮かべていた。
「何?」
「ゆきちゃん。早く行こ!ね!」
ぐいぐいと敦が如の手を引っ張る。
不気味だし早く行くのに異論はないけど。
んん?
何か………。
ふっと視界の端を…。
「あ、あ、あ、あつ、し……」
如が真っ青になって声を漏らすと、ゆっくりと敦が振り返った。花のピンがささって可愛いけど、敦の顔もかなり引き攣っていた。
「ゆ、ゆきちゃん?……もしかして…」
「…お前も…?」
何か通ったの見た…?
…と聞こうとしたらまた横を通っていった。
「…っ!」
「!」
敦と顔を合わせた。
「うわぁぁぁぁぁ~~~~!」
「でたっ!でたっ!」
敦が如の手を握ったまま走り出した。
そのまま一気に鏡を見る間もなく階段を一気に駆け下りる。
駆け下りたところで敦が如を抱きしめ、様子を窺った。
「………いない?」
「…………多分」
敦の手がそっと解かれたけどその敦の手はぎっしりと如の肩に回されていた。
「とにかくここまで来たらラストだ。今んとこアレは後ろついて来てるみたいでもないし…」
二人でそっと後ろを振り返ってみる。
「だな…。ちゃんと回ってこられなかったなんてバカにされんもやだし!」
絵画の部屋に入り目印…と、またテーブルがあった。
「じゃんけん……」
………可愛い。
「あのね……だから!なんで俺?」
「負けるから」
「そうですけど…しかし暗い部屋の肖像画ってこえぇなぁ……っ!…あの、ゆきさん?」
「ああん?」
敦の視線の先を辿ると絵画の中の人物の目が不気味に光っていた。
「うあああああっ」
「ゆきっ!」
敦が如の手を握って走ってさっさと部屋を出る。
さっきの二階での影がどうしても頭を過ぎり後ろから追って来てる気がしてしまう。
明るい電気の光りの部屋まで走っていき二人で部屋に飛び込んだ。
「……なんでウサ耳が柏木なんだ?」
「じゃんけんで負けたから!」
六平の質問に敦が答えた。…けど!問題はそこじゃないだろ!
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学