夏休みお泊り会編 5 和臣(KAZUOMI) 「じゃあ翔太」
「う、う、うん…」
出る前からすでに翔太の顔は真っ青。そりゃあそうだろう。誰よりも怖がりのはずなのに。
ならば肝試し、なんて言わなけりゃいいのに。
すでに明るい部屋を出る前から翔太は木に止まる蝉みたいに和臣に張り付いている。
…それにしても一周して帰ってきた柏木と二宮がぐったりしていた。
あんなに普段飄々としている柏木が珍しい。そういえば六平もどこか疲れているようだ。
和臣は蝋燭をもって翔太がぶら下がるようになっているのを抱きながら廊下に出た。
「和臣ぃ」
「お前はだからバカか?と言っている。自分から肝試しなんて言い出して!」
「だって~~~!まさか電気消してまでとか思ってもなかった~」
「じゃなきゃ肝試しの意味ないだろう!」
「皆悲鳴あげてたよぉ~」
「そうだな。ほらまずキッチンだ」
「うん…」
身体をびくびくさせながらも和臣がいるからか翔太はまだパニックにはならないようだ。
「か………」
「翔太っ!?どうした?」
短い声をあげて、ふっと翔太のしがみついていた力が抜けたのに慌てて和臣が翔太の身体を抱きかかえるとすでに翔太は気を失っていた。
……なんだ?なにが起こった?
翔太が立ってた足元を蝋燭の火で照らしてみれば薄いスポンジが置かれていた。
……足の感覚が変だったことで意識を飛ばしてしまったらしい。
テーブルからピンを取って翔太の髪につけてやる。うん、可愛い。
そのまま和臣は翔太を背負い、蝋燭を手に階段を上った。
ドアを開けて花のブレスレットを手につけてやる。
…シーツとは古典的だ。
そのまま廊下を歩き、西の階段を下りて絵画室へ。ウサ耳も当然翔太につけて。
絵の中の目が光ってたのになるほどと頷き、そのまま元の部屋に戻る。
「あれ?三浦どうしたの?」
「キッチンで早々にリタイヤだ」
「悲鳴も何も聞こえないと思ったら……」
「どこで騒ぐのかが分からない」
「うわ~~~~……」
柏木が嫌そうな声を出すがどうも歯切れが悪い。
…なんだ?
「じゃ最後俺達だね。蓮、いこう」
七海が八月朔日の手を引っ張った。
「いってきます」
泉(IZUMI) 「あ…」
「どうしました?」
暗い中、蝋燭のゆらめく明かりを頼りにキッチンに入ってから短く泉が声をあげると蓮が振り向いた。
「なんか踏んだ」
蓮が足元を照らし、二人で確かめてみるとただの薄いスポンジだった。
「あ、目印のピンですよ?七海さん…つけていい?」
「ああ?俺?」
「だって俺髪短いですもん」
「…そっか」
蓮がピンを泉に挿すとふふと嬉しそうに笑った。
「七海さん可愛い」
「……そんなの思うのお前だけだ。いいから行くぞ」
「はい」
手を繋いで階段を上がって紙の貼られたドアを開ける。
「やっぱコレちょっとビビりますね」
「そうだろ?こういったものは古典的なほうがいいに決まってる」
「ですね!…あ、コレも七海さんつけて?」
花のブレスレットを持った蓮に可愛くねだられるように言われればつけるしかない。
「…ウサ耳もか?」
「是非!絶対七海さん可愛いですから!」
仕方ないな…。
手を繋いで廊下を歩いていくと小さな影が横切った。
「あの…七海さん…?」
蓮が不思議そうな声で泉を呼んだ。
「うん?」
「見間違いかな…?…なんか………いるような……?」
「ああ、いるな。気にするな。悪いもんじゃない」
「……え?そう……なんですか…?」
「そう。座敷童子だ。ウチにもいる」
「え!?そうなんですか!?」
「ああ。人が来て楽しそうにしてたから出てきたんだろ。いくぞ」
「はい」
そのまま暗い廊下を手を繋ぎながら蓮とゆっくり歩いて鏡の前を曲がって西の階段を下りる。
絵画の部屋。
「七海さん」
にっこりと蓮がウサ耳を渡してくれたのをつける。
「七海さん…可愛い」
「……蓮がいいなら別にいいけど」
「うん。すごく可愛いです。髪がほら、ふわふわだから似合ってます」
「ふぅん」
「あ…なんか絵の中の目、光ってますよ?」
「ああ?LEDかなんかだろ。何を騒ぐとこあったんだろう?ここはさすが会長の、一条の持ち物だけあって何も悪いモノは寄せ付けないのに」
「そうなんですか?」
「そう」
「…俺、七海さんとペアじゃなかったら叫び声あげてたかも」
「……………ないだろ。二階のアレ見ても平気な位なら」
「そうかな…?」
そのまま蓮と手を繋いだままで普通に歩いて電気のついた部屋まで戻る。
「あれ?もう?…なんも聞こえなかったけど…?」
柏木が首を捻っていた。
「アレ…見間違い…?」
「柏木!お前も見た!…のか?」
「六平さんも!?如も見たよ!」
「泰明…っ!?何!?何?」
「…何を見たんだ?」
会長が不思議そうな顔だ。
「ああ、アレ?」
泉が口を開くと皆が一斉に視線を向けてきた。
「あれは別に怖くないよ。蓮にも言ったけど座敷童子だ」
座敷童子~~~~~!?
六平、柏木、二宮が声を揃えた。
「そう。だから全然平気」
「座敷童子?」
会長は全然分からないらしい。
「ああ、会長はきっと見えない…かな?」
「ん?見えない?」
何がだ?と会長が不思議がっている。会長のオーラは座敷童子にも強烈に思えて近づかないのかもしれない。
「七海さんってすげぇ~」
柏木が感心したように言う。そして六平は…
「七海…やっぱりお前は普通じゃなかった」
どういう意味だ!と泉は六平の足を思い切り踏んづけてやった。
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