なんかやっぱり喉が痛いし身体がだるい。
それでも動けないほどではないのでいつも通りに接客する。
碧の店が置いているのはティーンズ向けの男性用アパレル。
派手な物が多くて、若者用だから久世さんは絶対入らないような店だろう。
それでもそういえば久世さんは碧の店もちゃんと知っていたんだ?と今更ながら思い当たる。
まぁ、すぐ近くだし、碧が乗り込んだ時に店の名前も知っただろうし、すぐ気付くだろうけど。
昼休みには朝に久世さんに買ってもらった朝ごはん分を食べて、自分用に服をチョイスした。
着まわし出来るような物を選んでいく。
値段がちょっと怖い事になっているが仕方ない。何しろ店ではここの商品しか着られないし、おまけに一つも碧は服もないのだ。
喉がいがらしくて咳払いが多くなってくる。
咳が出る、ってほどではないけれど。
仕事している時の方が楽かもしれない。
だってここはいつもと変わらない日常があるから。
何も自分の事を考えなくていいんだ。
「店員さん着てるのってコレ?」
「そう!アレンジ利くし、ほら、こういうのと組み合わせてもいいだろ?」
「あ、いいかも!」
接客は楽しい。自分が勧めた物を買ってもらえるとやる気が増してくるから。
閉店の7時前にはお客さんがいなくなって無事7時に閉店。
残っているバイトと社員の人に明日から有給で休む事を伝えた。その際にどうしてもやはり焼け出された事は言わなくちゃなくて、同情されながらも納得してもらえたのにほっとする。
久世さんはもう来てるのかな、と外が気になったけどそれよりも早く店を閉めた方がいいに決まっている。
店長は今日は先に上がったので今は碧が責任者になる。
「レジ合いました」
夜間金庫のバッグに入れて…銀行に行かなきゃないけど、そうすると久世さんはまた銀行に逆戻りになってしまうんだ。
走って行ってくればいいか…。
「シーナさん、鍵」
「ああ、じゃすまないけど頼むな。あと連絡入れるようにするけど」
「はい。大変っすね」
「まったくだよ…。働いても働いても金足んねぇよ…」
有給をとって休む碧は店の鍵を同じ社員の後輩に渡した。
一緒に店を出て鍵締め。
「お疲れ~」
「っした~」
バイトくん達とも挨拶してきょろりと道路を見ると白いセダンが停まっていた。
近づいて窓から覗くと久世さんが乗っていたので、コンと窓を叩くと碧に乗って、と久世さんが手で示したのに夜間バッグを見せると窓を開けてくれた。
「いいよ。乗って」
「でも!俺ちょっと走って行ってくるから…」
「いいから。そんなちょっとの距離たいした事じゃないから」
久世さんがドアを開けてくれたのに買った服の入った大きな袋と一緒に乗ると袋は久世さんが後ろのシートに置いてくれる。
「すみません」
「そんなに遠慮しなくていいよ。あ、メール来てた」
昼休みに久世さんからもらったメアドに自分の携帯の番号と一緒に送っておいたのだ。
「明日から俺、有給三日取ったんです。その間に色々、アパート探したりとかアパートの保険とか色々しようと思って」
「うん。そのほうがいいね。明日明後日は土日で俺も休みだからよかったら付き合うけど?車出してやってもいいし」
「え?いい、ですか…?でも…なんかお世話になりっぱで…」
「もうここまできたらとことん付き合うよ。なんか…ごめん、言っては悪いけど、ひな鳥を巣立たせなきゃいけないような感覚になってる」
「……俺ヒナ?」
「…お腹すかせてピーピー鳴いてる感じ」
なんか間違ってないような気もしないでもないけど。
「親鳥に甘えていいから」
くつくつと笑いながら久世さんが言うのに碧は思わずぷっと頬を膨らませた。
そんなちょっとの時間で銀行に到着。夜間金庫バッグを預けてまた車へ。
「すみません」
「いいえ。ご利用してもらっているんだからね。お客様は大事にしないと」
「あ、そっか!そうだね!」
言われてみれば碧の店は久世さんの銀行の顧客になるのか。
そう思えば少しは気が楽になる。
「そういう事。さて晩飯は…どっかで食べていこうか?」
久世さんちのキッチンは使った形跡が全然なかった。
「…キッチンって使わないの?」
「ないな。道具なんかも最低限の物しかないぞ?…碧くんは出来る?」
「だって、俺金ないから外食なんて出来なかったもん。適当で簡単なのでいいなら作るけど…。包丁とかフライパンとかはある?」
「それ位は…。じゃあスーパーにしようか」
久世さんはすんなりと行き先をスーパーに決定したらしい。
…いいのかな?
なんかかえって気を遣わせているような気もしないでもないけど。
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