スーパーで買い物はいいんだけど、暗いガラスに映った久世さんと自分の姿に碧は違和感を覚えた。
だって久世さんはぱりっとスーツを着こなした、いかにも出来るサラリーマンだ。そして自分は、ちゃんと20歳越えて正社員で働いているはずなのに見た目未成年でチャライ格好をしたニーチャンに見えるのだから。
耳にはピアス開けてるし、格好は派手目。
そんな二人が一緒って絶対変な気がする。
ちょっと久世さんから離れた方がいいのだろうか?
久世さんの隣に立つには碧はどうしたって似合うはずがない。
友達でもおかしいし、じゃあ何なのだろう?
「碧くん?どうした?」
つっと碧が久世さんから離れると久世さんがすぐに気付いた。
「いや、あの…俺なんかと一緒じゃ久世さん…恥ずかしい、かな…と」
「そんな事はない」
きっぱりと久世さんが言い切った。
「人の事なんか気にする必要ないよ。……そういえば碧くんお昼は?」
「え…?あ、…と…久世さんに買ってもらった朝の分を…昼に…スミマセン」
「謝る必要なんてないけど。……そうだな…そんなに碧くんが気にするならウチにいる間、食事の用意と掃除をしてもらえる?毎日じゃなくていい。碧くんが休みの日とか。それで家賃食費タダ、という事でどう?」
「え?…そんな事で?」
「……そんな事じゃないのは昨日のウチの惨状を見て分かってるだろう?」
ぷっと碧は笑った。
「昨日は驚いた」
今度は久世さんがむっとした顔をした。
「誰かをウチに入れる事なんてなかったんだ」
「すみません」
碧は謝りながらも笑ってしまう。
それが遠慮している碧への妥協案だという事は分かっている。久世さんの優しさが嬉しい。
「ありがとうございます」
「いい?」
「はい」
碧の負い目にならないようにと考えてくれる久世さんは本当に大人だ。
むっとしたのだって本当にむっとしてるんじゃない。その証拠にもう顔は穏やかな笑みを浮べている。
そんなに自分ではちゃらちゃらしている事はない、と思っても見た目でどうしてもそう見えるのは仕方ないと分かっている。でも久世さんは気にしないらしいのに碧は安心した。
「キミはよほど俺よりちゃんとしているよ」
「え?」
久世さんが苦笑していた。
「自炊もちゃんとしてなんて…。俺はしようしようと思ってもつい楽な方に逃げているのに」
「俺だってしなくていいならしないけど。…あ、でも部屋ごちゃごちゃはあんまり…」
「……碧クンに任せます」
朝にゴミ出しの日も確認したし、あとはまさか一回では出せないだろうから少しずつ出して、洗濯して、そうしたら全然綺麗な立派なマンションだ。
「あの…料理って言ったって…俺、そんなに出来るわけじゃないですけど…」
何しろ食えればいいや、位の自炊だったのだ。
「いいよ。食えれば十分」
久世さんが碧と同じ考えなのにまた笑ってしまった。
昨日あんな事があったのに平静で笑っていられるなんて、久世さんがいなかったらありえない。
「…っくしゅっ!」
くしゃみが出て悪寒が走り、鼻水を啜った。
やっぱちょっと具合悪いかな?と朝だるかったのを思い出した。
気をはっていたのでそれどこじゃなかったけど。
「……声も少し掠れているようだけど…?」
「平気です。大丈夫」
久世さんに具合悪いなんて言えるはずない。
「…本当に?」
「バカは風邪ひかないんで」
にっと碧が笑うと久世さんが苦笑する。
…うん。なんかいい感じだ。
知らなかった人なのに、全然普通に話せるし、話も合わないという所がない。
職種も違うし履歴だってきっと雲泥の差があるだろうに、久世さんの気遣いと優しさがきっと碧に劣等感を与えないんだ。
「醤油とか味噌とかってあるんですか?味噌汁飲みたいな…」
「味噌買おう。和食…いいね」
しみじみと久世さんが呟くのに碧はまた笑った。部屋もアレだったけど食事にも飢えていたらしい。
こんだけかっこよくて銀行員でといったら彼女なんて選び放題だろうに。
「…彼女いないの?作りに来てもらったりとか」
「………部屋には誰も入れた事ない。というか…あそこに女性は無理だろう?」
昨日の惨状では確かにそうかも…。
またぷすっと碧は笑ってしまった。
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