「碧くん…?」
体温計と冷却シートを持って寝室に戻ったらすでに碧は眠ってしまったらしくすぅすぅと少し赤い顔して眠っていた。
Tシャツの首から体温計を差し込んで電子音が鳴るのを待つ。
どうみても未成年のように見えるけど22歳。
アイドルのような可愛い顔のイマドキの男の子にしか見えないが、しっかりしている。
言葉もちゃんとしているし、図々しい所もなく謙虚。
おおよそ姿とのギャップは激しいとは思う。
ピピッと音がなったので見てみれば38度5分もあった。
…大丈夫だろうか…?
とりあえず冷却シートを額に乗せるてやるとヒヤッとしたのかううん、と呻ったけれど目覚める様子はない。
昨日あまり眠れなかったと言っていた。あんな事があっては当然だろう。それにソファではやはり落ち着いて、安心して、は無理だったのだとも思う。
やはり最初からベッドの端を貸してやればよかったか…。
碧なら細いしそんなに気にならなかっただろうに、なんとなく言うのが憚られた。男同士だしそんなに気にする事もないのに。
迷い子のように途方にくれた姿に思わず来るか、なんて声をかけてしまったが、自分がそんなにお人よしだったとは、と苦笑が出る。
最初はチャラい今時の子だと思っていた。
銀行に毎日来るのにも、ピアスやアクセサリーをつけ、派手な格好。
およそ自分とは合わない種類の人だと思っていた。
それが一変したのは碧が乗り込んできたときだ。
夜間金庫で預かっていた碧の店の売り上げが入力の手違いで入金されておらず、それは勿論銀行側の手落ちだったのだが、それに対し、碧は自分は責任持って仕事しているんだ、と怒りを露に言い切った。
シーナなんて呼ばれていて、まるで髪を染めただけで外人気取りか?と思っていたのだが、その時の印象でがらりと見方が変わった。
そしてそのあだ名だと思っていたシーナもただ単に本当に苗字が椎名だからなのには自分が見た目だけで勝手に思い込んでいたんだと頭を殴られた気分になった。
見た目だけで判断されるのが決して気分がいいものでない事は自分でも分かっていたはずなのに。
いつでもまるでベテランの様に扱われるのに自分だって苛立っていたのに。
なんとなく勝手に自分が見た目で判断していた事で後ろめたいという気持ちも多少あったのかもしれないし、そして碧にも興味があった。
本当はどんな子なのか、とも思ったのだ。
見た目通りのチャラい子だったならば、ほら、と安心したのかもしれない。
でもやっぱり見た目とは全然違う子だった。
そもそも子というのも間違っている。自分とたった三つしか違わなかったのだから。
それにウチに来るなり掃除を始めて、さらに遠慮しいで、気遣いも細やか。
どんどんと印象が塗り替えられていった。
具合が悪いのも押し隠して倒れる寸前まで迷惑とか言っているのだから。
なんとなく放っておけなくて…。
つい何かと構いたくなってしまう。
ウチに来るか、なんてなんで言ってしまったんだろうか、と昨日車に乗せた時は思ったのだが…。
増長するような、遠慮がないような子だったらよかったのに。そうしたら出て行ってと言えただろうに、捨て猫のような目をする碧に勿論今はそんな事など言えるはずがなくなっていた。
知れば知るほどそのギャップが楽しくて。
この姿で味噌汁って…。
思わず顔が笑ってしまう。
久しぶりに温かい食事だった。
碧が住むところが決まらない内はどうやら奇妙な二人暮らしになりそうだ。
苦しそうな息を漏らす碧を心配してベッドに端に座り、久世は顔を覗き込んだ。
明日は仕事は休んだらしいしとりあえず熱が下がらなければ病院に連れて行かなければならないかな、と思ったところで日曜に用事が入っていた事を思い出した。
そっと碧の眠るベッドから離れリビングに行って携帯を取り出す。
「……もしもし?久世です。すみません、日曜なのですが、ちょっと用事が出来てしまったもので…。ええ。……いえ、そんな事はないですよ?別の機会に…。……はい。またご連絡入れるようにしますね。…はい。ではおやすみなさい…」
久世は電話を切ってはぁ、と深く溜息を吐き出しソファに座って頭を抱えた。
そして少しした後、もう一度寝室へと戻った。
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