昼も久世さんがうどんを買ってきてくれて作ってくれて碧は小さくなりながらご馳走になって、ホント何してんだろ、と自分で思うけど…。
午後になったら熱も下がり、身体は大分楽になった。
泣いて少しスッキリしたのもあるのかもしれない。
それにこんなに迷惑で面倒かけている自覚があるのに久世さんがそれでもいいと、口だけでも言ってくれた事に安心したのかもしれない。
熱を計れば37度3分でもう微熱程度。
体温が元々高めの碧は普通と言っていい位に回復した。
「寝ていなさいと言っているだろう?」
「あの…本当にもう大丈夫」
ベッドからそろりと起き上がってリビングに行くと久世さんに注意される。でもその注意もまたどうしても嬉しく感じてしまう。
「俺、平熱高いし…だから…大丈夫…というか…暇…」
「…じゃあ大人しく座ってなさい」
久世さんに腕を引っ張られてソファに座り、並んでテレビを見ていた。
「あの…久世さん用事とか…デートとか、ないの?あの…俺の事気にしないでいいので…。もしあれだったら俺、外出てるし…」
「今日も明日も何も予定はないから気にしなくていい」
あ……。彼女…いるんだ…?
思わず碧は久世さんを凝視してしまった。
「何?」
「あ、いえ…なんでも…」
彼女いなかったらいない、って言うはず…。
そっか…。だよな…。
昨日だって彼女部屋に来ないの?と聞いて誰も入れないとは言ったけど彼女がいないとは言ってなかった。
久世さんに彼女いないはずないよな、と碧はなんかやけにガックリしてしまった。
だから、ダメだって。
久世さんをその対象に見ちゃいけない。
そんな事を思っていると碧の携帯が着信音を鳴らした。
「あ、ごめんなさい…」
「どうぞ?」
誰かと思ったら社長だった。
きっとアパートが燃えた事を聞いたのだろう。
「……もしもし?」
『シーナ。今どこにいる?火事で住んでたとこが燃えてなくなったって!?』
「あ、うん…はい…。ええと…今は…知り合いの所に」
『知り合い!?…誰だ?』
「ええと…多分…芹澤さんは知らない…と思う」
『男?』
「うん…」
『寝た事…』
「ないっ!そういうのと違うからっ」
そんなに社長の声は高々というのとは違うから久世さんに聞こえてないよな…?
『…俺の所に来ればよかったのに』
「…………」
行かない。
「…とにかく大丈夫なので」
『……何かあったらすぐ頼ってきていいから』
「……ありがとうございます。はい。じゃ…」
そそくさと碧は電話を切った。
「あ、…母親に電話…」
「しときなさい」
すぐに久世さんが頷くので碧はそのまま電話した。
「もしもし?え、と…あのさ…俺住んでたアパートが昨日火事で焼けちゃってなくなったんだ…」
悲鳴が電話口から聞こえる。
そしてパニクった声ですぐ行く、とか聞こえるのに慌てた。
「来なくていいから!今は知り合いの所にいるから大丈夫。来られても正直困るし。保険とかも入ってるっぽいから大丈夫だって!ほら勇人いるし無理だろ?ホント大丈夫!何かあれば連絡するから。ああ?怪我?ないよ。だから!大丈夫だって。うん。あとまた連絡する。うん」
電話をちょっと離しても声が響いてくる大きい声に久世さんが小さく笑っていた。
恥ずかしい、とそれもそそくさと電話を切った。
「…すみません…うるさくて」
「心配なんだろう。ゆうと、くんってのは?弟?」
「そう。まだ小さいんだ…。母親再婚して…俺と19歳も違う弟」
久世さんが目を丸くしたのに碧は苦笑する。
「俺こっちきてから生まれて…弟とは数回しか会った事ないけど」
「……碧くんのお母さんならきっと若く見えるんだろう」
「あ、うん。それはそう」
嘘ついても仕方ないので素直に頷くと久世さんが笑い出した。
「似てる?」
「……まぁ…よく言われる」
認めたくはないけど…。
「なんとなく想像つきそうだ。きっと可愛らしいんだろうな」
久世さんは笑いが止まらないらしい。
…別にいいけど。
可愛いってのもよく言われるからいいんだけど…。
この見てくれのおかげでお姉さんからもお兄さんからも声がかかるし、相手を探すのに苦労したことはないから。
…それはいいんだけど、やっぱり男からみてもかっこいい、と羨ましがられるような久世さんに笑われるとちょっと面白くはないとは思ってしまう。
…一応。ちょっとは。
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