今日の分の洗濯も済ませ久世さんの車に乗せられて出かけた。
まずは前のアパートの不動産屋さん。次のアパートを探しつつも保険の事とかも聞けるので丁度いい。
それに久世さんが一緒で心強い。
きっと保険の事とか難しい事を碧が理解出来なくても久世さんは理解できるだろうから教えてもらえそうだ、とつい頼ってしまいたくなる。
最初はまず保険の事。
だって入ってくる金がなければ次のアパートなんて絶対ムリだ。
火事の原因は住んでいた別の部屋の人の不注意かららしい。
ぼろだった為にあっという間に燃え広がってなくなってしまった。
大家さんは保険を元金にまたアパートとかも考えているらしいけど、建つまで待っていられないし、きっと新しくなったら値段だって上がるに決まっている。
久世さんの言ったとおり保険には入っていたらしい。
手続きの仕方を教えてもらいついでにどこか安いアパートはないか聞いてみる。
久世さんはずっと碧の傍にいてくれたけど基本口出しは勿論何もしないで親鳥らしく見守っていてくれるような感じだった。
「はぁ~………」
やっぱり碧の条件に合うアパートなんてなかった。
どこも高すぎる。
「あとでウチに帰ってからネットで探してみようか?」
「…うん…PC貸してください…」
近くの不動産屋さんを当たったけど全滅。
でもいつまでも久世さんのとこにいるわけにいかないのでさっさと決めないと。
そうしたらやっぱある程度家賃は今まで払ってた分より高めじゃないと無理だ。
でもそれが碧の安い給料ではかなりキツイ…。
衣装代を減らせばいいのだろうけど、こう何もかもなくした今ではよけいにかかるのは目に見えている。
今着てるのだってまだ支払いしてないやつなんだから。
「はぁ~~~~~…」
がっくりとしてどうしても溜息が出てしまう。
シーズンごとに着る服が一枚もないんだ…。
冬のアウターとか考えると怖すぎる。
「……碧くん、おいで」
とぼとぼと久世さんと並んで歩いていると腕を引っ張られて店に入っていく。
「昼過ぎたからおなかすいただろう?まずは食べないと」
「で、でも…」
支払いも久世さんがするつもりなのはもう分かっている。
「気にしなくていい。デートに行って払ったもんだと思ってればたいした事じゃない」
思わず碧はどきりとした。
「そ、そりゃデートだったら!で、もっ!男同士でデートってない、でしょっ」
「ははっ!ま、碧くんは気にしないで、って事だ」
「……文房具欲しい」
「ん?」
碧があんまり気にしないようになのだろう、入ったのはファミレスだった。
今日は久世さんも休みだから勿論スーツじゃなくてジーンズだ。それに髪もラフにしていてこれだといつもよりもやっぱり若く見える。
「借りた分書いておかなきゃ!」
「…ホントしっかりしてるね」
ぷっと久世さんが笑っていた。
「今はそんな事より自分の事考えないと」
「あ……はぁぁ~~~…」
条件のいいアパートがなかったのを思い出し碧は大きく溜息を吐き出した。
「焦ってもいい事ないから焦らず、ね。何にする?」
「……安いのでいいです…」
「いいから気にしない。しっかり食べないとまた具合悪くなるぞ?俺はこれにするけど、碧くんも同じのでいい?」
碧だったら絶対に頼まないだろうステーキセットだ。
食いたいは食いたいけど…。
微妙な碧の表情を見て久世さんがくすと笑うと座席のボタンを押して店員を呼び同じのを二つ頼んだ。
「碧くん、よかった?」
「………う、ん……」
結構強引な所も久世さんにはあるらしい。
「あの…くん…つけなくていいです…名前で呼ばれるってウチの人以外で初めて、かも…。そこにくんつけられるとこそばゆくて…」
小さい頃からずっとあだ名というか普通に苗字なんだけど、呼び方は皆シーナだったのでそっちに慣れてどうも名前で呼ばれるのがくすぐったい。
「そう?じゃ碧、でいい?」
「…い、い…です」
…なんかそれも妙に照れくさい気がして、そしてどきりとしてしまう。
だって久世さんが碧って名前で呼ぶから…。
いや、ダメだってば!
さっきのデート発言にも思わず碧は過剰に反応してしまった。
でも久世さんは違う!ホント普通にノーマルなんだ!
碧の事は小さい子扱いになってるだけ!
そう自分で思えば微妙に凹んでしまうんだけど…。
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