好きになっちゃってる…のかなぁ…?
優しくされたから?
でも最初なんて皆きっと誰でもそんなもんだよな…。
喋った事なくたって好きになることだってあるし。
PCを見ながらも考える事は久世さんの事ばっかだ。
だいたいにしてこんなマンションに一人で暮らしてる人と碧が釣り合うはずがないのだ。
いやいやその前に男だっつうの。
久世さんにされてるとこ想像しながらしちゃったって…。
はぁ、と碧は溜息を吐き出した。
頭取の娘さん、あの綺麗な人とお見合いして、って言ってたんだから…。
それなのに、どうやらわざわざあの人との約束を断って碧にわざわざ付き合ってくれていたらしいのがかなり嬉しく感じてしまった。
「あ~~~あ……」
やばいなぁ…と思う。
だって…こんなに久世さんの事ばっか考えてって…。
先なんかないのが分かってるのになんでこう気持ちって加速していくんだろう?
好きになっちゃダメだって分かってるのに、自分が苦しくなるだけだって分かってるのに、なんで…。
一緒いればもっと進んでいきそうでやっぱ早いとこアパート決めよう!と碧はPCに向かった。
「いいところあった?」
帰ってきた久世さんがスーツを脱ぎながら聞いてきたのに碧は項垂れながら小さく首を振った。
「………なかった」
「焦ることないよ?焦って決めたっていい事ないから。そういう時って決まった後に自分の条件に合ったの出てきたりするからね」
頭を項垂れた碧に久世さんはポンポンと頭を軽く撫でるように叩く。
……これがもう子供相手な感じだろう。
「…ありがとうございます」
久世さんが優しさでそんな事いってくれるのは分かるんだけど、たださっさと決めないと自分が辛そうになるんだよな、と碧は心の中で付け加える。
「……部屋がキラキラしいな…かえって悪いね…」
「そんなの全然っ!」
本当に久世さんには感謝しかない。掃除とかなんて碧にとったら全然何でもない事だ。
今日はネットでレシピもついでに調べて何か簡単でおいしそうなものも調べた。
どうやら和食が食べたいらしい久世さんの為に作ろうと思った。
ただ今日は買い物もいかなかったからどうしても材料がなくてそれは今度だ!…といってもいつまでいるか分からないのだが。
早く見つかって欲しいのと見つかって欲しくない気持ちがどうしても半々になってくる。
だめだめ、と碧は頭を振った。
そしてやっぱり寝るのは久世さんのベッドへ。
もういいや…と抵抗をやめた。
碧だってソファや床よりもベッドの方がいいに決まってる。
ベッドは広いし久世さんにその気がないのだから碧も変に気にする必要はない。
「…布団も干してくれたんだ?」
匂いに気付いて久世さんが言ったのに碧はうん、と返事を返す。
「俺…なんも出来ないから…。こんな事しか出来ないけど…」
「いや、十分だよ。気持ちいい」
そう言ってもらえるだけで心は軽くなる。
並んでベッドに寝るのにはどうしても変な気分にはなってしまうが…。
そういや土曜に社長が付き合えとか言っていたのを思い出した。
久世さんは土曜日日曜日は休みだろうけど、碧は基本シフト製だから休みではない。月に一、二度なら休む事もあるが…特に用事がなければ普通は出勤だ。
社長と出かける、とは何となく言いづらくて後でいいや、と先延ばしにする。
それに社長の気まぐれでキャンセルになるかもしれないし。
ふわ、と欠伸を漏らせば太陽の匂いのする布団に眠気に誘われる。
久世さんじゃないけど気持ちいい…。
ベッドはふわふわだし、住むトコもなくなったはずなのにこんないい思いしていいのだろうか?
自分のアパートよりもずっと快適だ。
洗濯機は乾燥機付きだし。部屋も立派で広いし。
でもきっとあの女の人と結婚する事になったらここにあの女性が寝るんだ…。住むんだ…。
久世さんは何となくまだしっくりいってないような事を言っていたけど、お見合いしてお付き合いしているならそういう事だろう。
ちょっと心がもやもやするのを打ち消すように碧は目を閉じると、久世さんが電気消すぞ、と言って電気が消える。
三日あった碧の有給が終わってしまった。
結局収穫なし。
収穫があったのは久世さんの情報といくらか保険が入るという事だけだった。
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