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月からの甘い誘惑 29

 金曜日の給料日に銀行で給料が入ってるのを確かめた。
 これでようやくいくらか久世さんに返せる。
 でも本当に微々たるもので、住まわせてもらってる分は返せそうにない。
 アパートがなくなった所為で光熱費とかアパートの家賃とかがないけど、服代や、細々としたものがなさ過ぎるので本当に何もかにも買わなきゃないんだ。
 交通費も全部久世さんにまかせっきりになってて申し訳ないのに…。
 食費と家賃分じゃないけどいくらかやっぱり払わないと。
 碧は頭の中で計算しながら仕事をこなした。


 「あのこれ…少しだけど…今日給料日だったし…」
 碧は久世さんに乗せられ一緒にマンションに帰ってきてから封筒を差し出した。
 「スミマセン…ウチの社の封筒だけど…」
 「それはいいけど…。大丈夫?」
 「…はい」
 ……多分。と心の中で付け加える。

 「一応受け取るけど…」
 久世さんが受け取ってくれたのにほっと安堵した。受け取ってもらえればここにいていいような気持ちになる。
 「もし…苦しい時は後でも別にいいよ?衣類代も嵩んでるだろう?…碧が居辛くなるだろうから一応受け取っておくけど」
 「うん。はい…」
 やっぱり久世さんもいていいよ、と言ってくれてるのと同じだ、と碧は嬉しくなる。

 「ご飯の用意するね!」
 帰ってきてから簡単に出来るものを碧が作っている間に久世さんはシャワー、が普通になっていた。
 なんだかなぁ、とまるで同棲のようなくすぐったい気持ちはずっと持続している。
 明日は土曜日で久世さんはデートか…と思ってしまうと気分は少し落ち込んでしまうが、それを碧がどうこう思う資格はないんだ。
 

 「すみません…探してるんだけど…全然なくて…」
 「気にしなくていいと言ってるだろ。むしろしばらくこのままでもいいかなぁ…」
 「……え?」
 ご飯を食べながら碧が謝れば久世さんにそんな事を言われて思わず顔がぱっと明るくなってしまった。
 だって普通だったら彼女いるし、連れてこられないから早く出て行ってくれと思うはず。
 社交辞令だとしてもこのままでいいなんて事、思ってなかったら言わないよな?と碧はにこにこ顔になってしまう。

 「そんな事言われたら出て行かなくなっちゃうよ?」
 だって出来る事なら一緒にいたいと思ってるんだから。
 久世さんもくくっと笑う。
 「本当にここ!と決まったとこ見つかるまでいいさ」
 …でも、もし久世さんが婚約とか、結婚ってなったら…?
 碧はずるいからそんな事思っていても口にはしない。
 
 夜ももう普通に久世さんのベッドの端を貸してもらうのが普通になってしまった。
 朝ご飯の用意や洗濯やと碧の方が早起きの所為か眠くなるのは碧の方が早くて、大体は先に碧がベッドに入ってしまう。
 前はこんなに早くに眠くなる事なんてなかったはずなのに…。

 考えてみれば、アパートで一人の時はちょっとの物音が気になったりとか、神経を研ぎ澄ましていたのかもしれない。
 ボロいアパートだったからそんなとこに泥棒なんて入るはずないだろと思いながらもなんとなく誰かが階段を上ってくる音とか、隣の部屋の生活音とか色々気になっていたんだ。
 それが久世さんとこ来てから全然ない。
 一人じゃないっていうのもあるのだろうか?
 なんか安心していられるっていうか…。

 一緒にいるのが久世さんだからかもしれないけど。火事の時に碧を安心させてくれたのが久世さんだったから。
 …やっぱ刷り込み状態だ。
 くすっと笑いながら碧は布団をかぶった。
 温かいフワフワの寝床はいつも碧に優しい。
 困ったな…。ホントに出て行きたくないんだけど…。
 プラス久世さんの腕なんかあったらもう絶対居座ってしまう!
 久世さんに言われた、いていいの言葉に安心して碧は目を閉じた。


 「スミマセン…」
 碧は小さくなりながら久世さんの運転する車に乗っていた。
 土曜日で久世さんは休みなのに朝わざわざ起きて碧の為に送って来てくれたのだ。
 「帰りは本当に大丈夫かい?」
 「うん」
 いつものスーツじゃない久世さんはやっぱりちょっと新鮮だ。
 髪もいつもよりもルーズで前髪が降りているとやっぱり若い。

 でもびしっとしてるのもカッコイイから、きっと何したってカッコいい人はカッコイイんだ。
 そしてどうしてもちらちらと見てしまう。
 「ありがとうございました」
 「はい。いってらっしゃい」
 車の窓から挨拶するのがこそばゆい。
 悪いなぁと思うけれど、嬉しくもあって思わず碧が笑みを溢せば久世さんもくすと笑ってくれる。
 じゃ、と久世さんが言って車を出し、走り去るのを碧は手を小さく振って見送った。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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