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熱視線 終幕~フィナーレ~1

 父のオケが日本に入って本番前のリハ。
 客席で明羅は難しい顔で音を聴いていた。
 時差もあるだろう。
 だがひどい演奏。
 「明羅」
 父が呼んだので明羅は壇上に上がった。
 子供だと馬鹿にしているのは見え見えだった。父もそれを知っているがあえて言わない。ここでは親子ではない。
 怜ははらはらとしてピアノに座って心配そうに見ている。
 ぼそぼそとドイツ語で悪口が聞こえる。
 音は完璧。
 ただやる気とか気概が見えない。
 「レベル低すぎなんだけど?」
 父に向かって言えば父はくすくすと笑うだけだ。
 「お前の気に合うように指示出して」
 タクトを父から渡された。
 「私は休んでる」
 明羅は頭を抱え込みたくなる。
 「お父さんの仕事じゃないの!?」
 父は肩を竦めて去っていった。 
 

 譜面台をカンっと叩いた。
 ドイツ語を知らないと思ってるんだろ?
 馬鹿にするな。
 小さい時から毎年行ってたし知ってる!
 『ここにプロはいないらしい』
 上からにらみ付けた。
 『音が合ってない。フォルテがフォルテじゃない。ピアニッシモはもたもたしてる。音楽用語の意味分からないの?……始めからお願いします』
 明羅がタクトを上げる。
 始めのフォルテ。
 『合ってない!!音が揃ってない!ヴァイオリン入り遅い!…もう一度』
 今度は揃った。
 だけど続けての囁くように、がなっていない。すぐにタクトを下ろす。
 『囁くように、指示書いてるのに意味分からない?』
 始めから、向こうから馬鹿にしてきたのにゴマするかっ。
 折角楽しみにしてたのに怜さんのピアノまでたどり着けそうにないのにげんなりしてくる。
 むかつくっ!
 『…もう一度』
 いくらかあちらも子供だと馬鹿ににてる明羅にいいように言われて憤慨してきたのか音がまともになってきた。けど全然まだまだだ。
 はぁ、と溜息を吐き出して頭を振った。
 『プロじゃないの?音鳴らせられない?全然歌っていないんだけど?』
 「明羅く~ん…大丈夫~…?」
 怜が小さく明羅に話してくる。
 「無理っ!これじゃ俺と2台ピアノの方がましでしょっ」
 「聞かせてやったら?ここのホールもう1台ピアノあるでしょ」
 「………お父さんに聞いてくる」


 父からOKが出てピアノをもう一台運んで来た。
 何が始まるのかと皆が見てる。
 『これから聴かせるからちゃんと聴いてて。俺のピアノよりもレベル下なら演奏してもらわない方がいいから』
 向かい合わせになったピアノから怜と顔を合わせる。
 もう何度も合わせてるから息もぴったりだ。
 こちとらピアノ1台でひとりでオケの分弾けるのになんだってこんなにいて出来ないんだっ!
 ちょっと怒りモードで早くなってしまったが、それでも弾き終える。
 ピアノを片付けてもらった。
 
 
 『今のより演奏下だったら俺、曲持って帰るから』
 明羅は傲然と言い放った。
 「明羅くん…やっぱり怖い」
 怜さんが下のピアノで呟いてるのを無視してタクトを上げた。


 そこはやはりプロの音楽家。
 明羅と怜のを聴いて触発されたらしい。
 どうせ親の七光りとか思って馬鹿にいていたのだろう。
 譜面だけからでも読み取れ!
 外国では実力だけの世界だ。
 あんた達はプロだろう!?
 
 
 『まぁまぁ合格点かな』
 はふ、と息をついて明羅が笑って言った。
 『でもまだぞくぞくこないから。俺を感動させる演奏を期待してます』
 ぺこんと頭を下げて指揮台を降りる。
 あとはコンダクターである父の仕事だ。
 のろのろと父が笑いながら出てきた。
 「ずるい。怠慢。最悪」
 父に向かって顰め面で言った。
 「仕方ないだろう。はいご苦労さん」
 明羅は大人しく父に任せ客席に戻った。
 練習再開に眉間に皺を寄せていると団員がちらちらと明羅を見ているのに気付く。
 どうやら受け入れられたしいのに笑みが零れた。
 これならいけるだろうか…?
 

 リハが終わると怜は女の団員に囲まれて絶賛されていた。
 なんで世界に出てこないとか、聞こえてくる。
 明羅は気になった音を出していた人に一人ずつ声をかけた。
 チューニングがほんの少しずれてる。
 音の出だしが遅い。
 もっと柔らかく。
 焦燥感をもっと出して。
 全体的にではなくパートに伝える。
 全部が一体化しないと生きてこないから。
 なんといったってコレは明羅の曲なのだから。

 

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