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2012.09.26(水)
「何あれ、もう馬鹿にしすぎでしょう!」
父と怜と三人で食事に出てきた。個室のある高級なレストランで父の好みらしい。さすがに父は有名人だから個室じゃないと落ち着かないだろう。
「まぁまぁ…」
怜が宥める。
「あっちは皆個性が強いからなぁ」
父の暢気さに呆れる。
「というか多分明羅があんまり子供に見えたから、だと思うけどね」
「どうせね」
「明羅くんドイツ語話せるのね」
怜が苦笑してた。
「そりゃ、行ってたし。ある程度ね。でも書けない、かな…。読むのもあんまし」
「…さすがセレブ」
父が笑ってる。
「怜君は相変わらずあんな中でもいい演奏するね」
「ありがとうございます。そりゃあもう、気が抜けませんから」
「……それ、俺の事?」
「当然でしょう」
「……明羅、厳しいから」
父がぼそりと言った。
「やっぱり、そうなんですか?」
怜は伺う様に明羅の父に視線を向けた。
「怜君には手放しなんだろうけど…。もうひどいよ。佐和子さんも凹んで嫌になると言ってた。平気でダメだしするから」
怜は恐ろしいものでも見るように明羅を見ているのに明羅はむっとした。
「だから明羅が毎年怜君のコンサートに行って鬼のようになってると聞いて私はずっとどんな演奏するのかと気になっていたんだが」
「…はぁ」
怜は困惑の表情だ。
「俺もなんで怜さんだけ特別なのか分かんない」
明羅が平然というと怜が微妙に困ったような照れたような表情になった。
「というか…小さい頃は明羅はずっと、ドイツ?」
「ドイツ、オーストリア、あたりかな」
「……何故日本に?明羅だったらあっちのほうがよかったのでは?」
父のほうに向かって怜が聞いた。
「…私達も自分に忙しくて、ね。放っておきっぱなしになってしまった」
「別に問題ないよ」
明羅が食事を口に運びながら言った。
「………ずっとこんな調子だから。私達の方が甘えている。……だから、何も言えないんだよ」
父が怜に軽く頭を下げてるのに明羅は首を捻った。
「いいけど、今日のリハであとは大丈夫そう?」
「……多分な。私は明羅と怜君の演奏を聴いているからどうしたいのか分かっているつもりだ」
父が音楽家の顔になった。
「じゃあ本番楽しみにしてる。怜さんには文句なしでしょ」
「ないな」
「でしょう!」
明羅は破顔した。
「だって!怜さん」
「…ああ」
怜の目が優しくなっていて明羅も嬉しくなった。
「お父さんご馳走様でした。じゃ、あと本番で。楽しみにしてるよ。…って楽団の人にも言っといて?」
「分かった」
「私までご馳走様でした」
怜が父に頭を下げた。
「いや、じゃ、明羅をよろしく」
「はい」
明羅はじゃあ、と父と別れて当然のように怜と一緒に車に乗った。
「…お前いいの?」
「何が?」
「せっかくお父さん帰ってきたのに」
「別にいいよ。それより怜さん…今日のオケいまいちだったから…」
「ま、仕方ないな」
怜さんも乗れて弾けていなかった。
「本番に期待するさ」
「……うん、…ね、怜さん」
「んん?」
キス、したいなぁ…。
「明羅くん?ちゃんと言ってね?」
怜さんがにやにやしてる。
分かってるのに、わざわざ言うんだから。
「キス…」
怜が顔を近づけて明羅の唇を啄ばんだ。
「あとは帰ってからな」
「…ん…」
仄かに顔が熱くなる。
「しかし……明羅はやっぱり恐かった~」
怜が車を出しながら笑った。
「どこが?」
「そりゃ冷然と女王様な所が。しかし本当音楽には妥協しないね」
「当たり前でしょ。……女王様ってナニ?前も言ってたよね?」
「いやぁ~、ね…?」
「ね、じゃないですけど?もう!今日はすごくむかついたっ!怜さんとこのピアノまで行かないかと思ったもん」
「まぁ、…始めはな…ひどかったな。でも最後はまぁまぁだったろ」
「まぁまぁじゃだめ」
怜が苦笑してる。
「今度は2台ピアノの曲でも作って?そしたら一緒に出来るだろ。連弾じゃなければ隣に並んでじゃないからいいだろ?」
くくっと怜が笑っている。
「うん…いいかも。怜さんの息遣い分かるし」
「ああ、俺もお前となら気を使わなくても合わせられる自信があるな」
「でも作っても発表しないよ?俺人前で弾かないもん」
「今日弾いただろ?」
「あれは観客じゃないでしょ」
「なんだ…残念だな」
怜といると音楽が広がっていく。次々際限なく浮かんでくるのだ。