「碧…」
「………んん……?」
声をかけられてそしてキスを感じ、碧ははっと目を覚ました。
「おはよう…寝てたのに悪い」
「え?ううん?…あれ?久世さんもう着替え…」
「ああ、もう行く時間だ。寝かせておこうかとも思ったが…」
「やだ…。起こしてくれればよかったのに!」
碧が慌てて起き上がろうとしたら久世さんがいいから、と碧の身体を押さえつける。
「寝てていい。飯、作っておいたから食える時食べてろ。あと昼にでも電話する」
「………う、ん…」
そしてまた軽くキスしてきた。
「じゃ行ってくる。碧は寝てていいから」
確かに身体は重いけど…。
「…いってらっしゃい…」
「ああ」
久世さんがくすっと笑ってもう一度軽くキスして部屋を出て行ったのを見送ると、碧はかぁっとして布団の中にがばっと潜り込んだ。
恥ずかしいっ!
ナニコレ!
いたたまれない!
……それなのに途轍もなく幸せだ。
悶えてしまう。
だってだって…。
夢じゃないよな?と碧は半身起き上がって久世さんから借りているスウェットを捲くって自分の身体を見てみると久世さんがつけたキスマークが身体中あちこちに散らばっていて慌ててスウェットを下ろした。
……夢じゃないみたい。
いや、後ろもまだ何となくなにか挟まってる感じはするし、倦怠感もハンパないから分かるけど…。
朝からキス…。
碧は真っ赤になっているだろう自分の顔を覆った。
「………やばい…かも…」
だってこんな気持ち初めてだ。
どうしよう…好きが溢れてくる。
キスも好き。久世さんも声も、手も体温も全部…。
全部自分のものだけだったらいいのに…。
久世さんの好きも全部碧に向けばいいのに…。
でもいて欲しいって言われた。
碧は特別だって。
芹沢さんにつけられたキスマークには苛立ったって。
うわぁうわぁと…碧は昨夜言われた事された事を思い出してじたばたしたくなる。
何回も久世さんが碧の中でイったんだ。
身体中ぐちゃぐちゃになる位。
だるいけど心地いい。幸せだ。
そして朝からキスで、ホントに夢じゃないんだ。
戸惑っているとは言ってたけど、でも好きって…。
特別って。
嬉しい!と碧はベッドで悶える。
「久世さん…」
寝た時もずっと久世さんの体温を感じた。
今まではベッドの端は貸してもらってたけどずっと離れてたのに。
誰かと朝まで一緒は始めてだった。こんな甘い朝も。
いつも終わればじゃあ、な感じで淡々としてたのに。自分は淡白なんだと思ってたのに。
一回出せば満足だったのに…、昨日は足んなくて…。
何回したんだろと思わず数えたくなってしまう。
「あ……」
部屋に汚れたシーツが放置されてるのが目に入った。
「…洗濯しよ…」
碧は起きだしてシーツを持つとよろよろしながらも洗濯機を回す。
キッチンにはオムレツとウィンナーとおにぎりが置かれていた。
久世さんがわざわざ作ってくれたんだ。
自分で出来るのに…でも全然しないくせに…昨日も夜の分も作って待っていてくれた。
碧がいたら久世さんはするのかな?
変なの…。
嬉しくて顔はついだらしなく緩んでしまう。
今日は碧が休みだからちょっと凝ったの作ろう!
そして久世さんが帰ってくるのを待ってよう!
「……っと、その前に電話しないと…」
今日の昼の一時にって社長に言われてたんだった。
もういらないもん!
いていいって言ってもらえたから。嫌じゃないって言ってもらえたから。
『はい』
「あ!オハヨウゴザイマス!…あの~、スミマセン。今日のキャンセルで」
『ああ?なんだ?出て行けって言われたんじゃなかったのか?』
「違います!…俺の勘違いだったみたい」
『ふぅん…。分かった。でもいつでも空けてあるから何かあれば言ってきなさい』
「ないです!」
『どうだろうな?……ま、いい』
「……でもありがとうございます」
碧がそう言うとくっくっと芹沢さんの笑い声が聞こえてくる。
『部屋はシーナの為にいつでも空けておいてやる』
「…大丈夫、です」
………多分。
大丈夫、なはず…。
じゃ、と社長が碧の大丈夫には返事をしないで電話を切った。
大丈夫、なのかな…?
でも久世さん由紀乃さんと付き合ってる、の…かな…?
頭取の娘さんっていったはず…。
そんな人とお見合いしてデートしてるのに…?
碧は首を振った。
自分とそんな人を比べるのが間違っている。
自分は本当に身体一つ位で何もないし、しかも男なんだから。
しゅんとしながら久世さんの用意してくれたおにぎりを頬張った。
「……おいしいよ…?」
作ってくれた人はいないけど小さく呟いた。
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