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月からの甘い誘惑 51

 電話の声は元気そうだったけれど大丈夫だろうか…?
 電話を切った後、久世は電話を睨んだ。
 出ていくといった碧を離したくなくて…。そのまま力任せに抱いてしまった気がする。
 でも碧は好き、と…。
 思わず昨夜の碧を思い出すと下半身が疼きそうになってくる。

 ……可愛かった…。
 身体を官能に震わせるのも声も全部が。
 ずっとあのキスマークから気になって気になって…。
 やっと満足した気がする。
 ……いや、まだ足りない…?
 あれを思い出すとどうしても腸が煮えくり返る。
 それなのに、あれをつけた本人のアパートだかマンションだかに碧は行くつもりだったのか!?

 …そこはかなり面白くない。
 風呂場であんなに肌が真っ赤になるくらい擦りつけていたのに…。
 いや、それ位だったのにそこにも頼らざるを得ない位に自分の態度が悪かったんだ、と反省もするが、やはり面白くはない。
 くそ…。
 心の中で毒を吐く。
 あの碧のキスマークが頭を離れない。
 それにしたって昨夜はちょっとやりすぎだったかとは思ってしまうが…。
 何度も何度も碧の中に吐き出してしまった。
 最後にはもう碧はこてこてと力も入らないようだったけど。
 それでもいい、して、と可愛く言われたら我慢できなくて…。
 一人で顔がにやけそうになって口元を押さえた。

 「久世君」
 昼飯を終えて戻ると支店長に呼ばれたのに頭を抱え込みたくなった。
 支店長室に入り、ドアを閉めた。
 「君、頭取の娘さんとはどうなっているのかね?」
 「…はぁ…」
 やっぱり…。
 「あの…俺まだ結婚なんてする気…」
 「いやいや!そんな事言ってないでこれはチャンスだろう?」
 でも別に結婚を糧にのし上がろうとも別に思ってもないのに…。

 「私だって結婚は25だ。早いなんてことは全然ないよ」
 そういう事じゃないのだが…。
 それに今可愛いと思うのは碧の方だ。
 「まさか断るなんてしないだろうね?」
 はぁ、と思わず久世は溜息を漏らしてしまう。
 困ったな、というのが一番だ。
 断れるものなら即座に断りたい。
 だがこの支店長の意気込みにとてもじゃないが口に出せそうもない。

 最初から結婚なんてまだ考えていないと言ったはずなのに…。
 こうなってくると辞める事まで考えなきゃなくなるのか…?
 やはりお見合いなんか受けるべきじゃなかったんだ。会うだけという話だったはずがそんな条件などどこかに消え去ってしまっている。
 「とにかく早くに話を進める様に」
 「いえ…」
 「久世君」
 厳しい支店長の声に思わずそれ以上何も言えなくなってしまう。宮仕えは何も反論できないのが困ったものだ。


 「おかえりなさいっ」
 仕事を早めに終わる事が出来て帰ってくれば碧が玄関まで迎えに出てきてくれてにこにこの笑顔だ。
 …やっぱ可愛い…。
 はぁ、と溜息を吐きながら思わず碧を抱きしめた。
 「く、久世さん…?」
 慌てたような碧の声にはっとして手を離す。
 お見合いして由紀乃さんと会っているのに碧を中途半端なままに抱いてしまったんだ。
 宮仕え云々言ってる場合じゃないだろう。
 自分はどうしたい?

 部屋が綺麗になっている。着替えをしに寝室に行けば洗濯もしてくれたらしく汚れたシーツもなくなっていた。
 動かなくていいと言ったのに…。
 それに飯の支度も。
 昨日の夜も今朝も動くのがダルそうだったのに…。
 「碧…体は?平気か?寝てていいと言ったのに」
 「だ、大丈夫!」
 キッチンにいた碧に声をかければ顔を真っ赤にさせているのがやっぱり可愛い。

 「洗濯も…部屋もありがとう」
 「ううんっ!全然っ」
 久世がそう言うとぱっと碧の顔は晴れやかになる。
 碧は置いてもらっているという後ろめたさがあるらしく自分の出来ることを無理にでもしようとするんだ。別に何をしなくたっていていいのに。
 それに礼を言うと嬉しそうにする。反対に久世が何かしようとするのは自分の居場所がなくなると思うのか嬉しそうではない。

 いや、嬉しそうじゃないのではない…。複雑そうなんだ。
 されるのは嬉しいけど、それだときっと自分はいらない、とか思っているのかもしれない。
 本当に見た目と全然違う碧に思わず顔が笑ってしまう。
 「な、なに?」
 「いや?…助かる」
 「……うん」
 家事は出来なくはないがどうしても一人でいるとどうでもいいことに思えてしまっていたが…。碧がいれば料理は苦ではなかった。片付けはどうしてもつい散らかしてしまっているが…。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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