「道わかんねぇかと思ったんだんだけど早く着いた…あ、岳斗!」
「尚先輩!遥冬さん!」
「岳斗くん」
遥冬さんがほっとしたような顔で岳斗を見たのにへへ、と岳斗も嬉しくなった。
なんか変な感じ!
ちょっと店に入って軽く何か食べてから行こうかと、ぞろぞろと六人で移動。
そういえば岳斗が高校2年の時のクリスマスイブの日のライブが千尋先輩のエール・ダンジュの始まりだったんだ。
…それに…。
岳斗は仕事の時はいつもはしていない指輪をそっと手で撫でた。
もう4年前なんだ…。
長いような短いような…。
「おい、岳斗!」
「ん?なぁに?」
尚先輩とも3年も会ってないのに全然普通なのがおかしい。
「孝明と一緒にいるの誰?」
「千尋先輩のお兄さん」
「はい!?まじ?」
「うん。遥冬さん…」
「久しぶり。岳斗くん変わらないね」
「遥冬さんは…綺麗になったね…」
「だろ!?も~チョーやばいって!」
「岳斗」
尚先輩と遥冬さんと話していると低い声がふってきた。
……尚先輩にあんまり近づくな、って事?
「はっはぁ~!千尋~!相変わらず変わんねぇ~んだ?」
「うるせぇ」
尚先輩が笑いながら今度は千尋先輩に絡みにいくと千尋先輩の肩をくんで千尋先輩を突いたりしてじゃれている。
「岳斗くんは…高校も一緒だったんだよね?」
「うん」
「…あんな感じだったんだ?」
「…うん」
遥冬さんが羨ましそうにしてじゃれているのを見ていた。
「俺も…見てたけど、…見てただけだった…。Linxの…あ、Linxって高校の時のバンドの名前なんだけど、Linxの中には入れないから…」
じゃれついている千尋先輩と尚先輩の所にタカ先輩も混じっていく。
「遥冬さん」
遥冬さんの腕を引っ張って千波さんの方に行った。
道でじゃれ付いてるLinxは放置!
「加々美 遥冬です」
「篠崎 千波です。一応、千尋の兄です」
「……似てらっしゃらないですね」
「よく言われますけど。本当の兄弟ですよ?」
印象は二人ともキツめで冷たい感じなんだけど、今はどこか柔らかに見える。
ちらっとじゃれてるLinxを見れば千尋先輩もやっぱりなんだかんだいっても嬉しそうだ。
それからちょっとハンバーガーでお腹を満たしてライブハウスへ。
今日はクリスマスイベントだけど、インディーズバンドのライブなので千尋先輩もタカ先輩も出番はなしらしい。
そこはちょっと寂しい気もするけど、出演する側だとゆっくりも出来ないし、と思えばいいのかも、と思う事にする。
ライブハウスに来るのは岳斗も仕事以外では久しぶりだ。
エール・ダンジュのライブやコンサートでも今はほとんど仕事で入るので純粋に千尋先輩だけに集中出来ないとこがほんの少し岳斗は不満ではあるけれど、仕事で千尋先輩と一緒の場所に立てているという特別感はあるしとても気持ちが複雑だ。
たまには千尋先輩だけ見て堪能できたらな、って思う時だってあるけど、それは我が儘な気もする。
ほんのちょっとだけ残念なのはもうずっと思っていた事だ。
「岳斗?」
どうした?と千尋先輩が岳斗の顔を覗き込んだ。
「んっと…折角のライブだけど、千尋先輩の演奏見られないのが残念だなって…だってほらココ最近ずっとお仕事も一緒でしょ?勿論それはそれで普通の人とは違う事出来てるからいいんだけど、仕事じゃなくてたまにはただ千尋先輩だけを見ていられたらなぁ~って…チョット思っただけ…」
千尋先輩がくすと笑って岳斗の頭を撫でてくれる。
ライブハウスはテーブルを用意されていてドリンクをもらって今日の演奏バンドのステージを待つ。
ここに初めて千尋先輩に連れてきてもらった時に遠藤さんに会って、そして仕事になったんだ。岳斗にとってもここはまた色々な思いの詰まった場所だ。千尋先輩と自分の将来への出発点がここなのかもしれない。
クリスマスイブの日だった。今日もまたクリスマスイブで街中がクリスマス一色の日にこうして尚先輩とタカ先輩までいて、特別だ。
「千尋先輩…ありがと」
「…何が?」
「遠藤さん、脅したんでしょ?」
岳斗がぷっと笑うと千尋先輩は肩を竦めた。
「あらー!」
……この声は…。
すっと岳斗は千尋先輩の影に隠れるようにした。
岳斗達の座るテーブルの脇に立っていたのはエール・ダンジュのキーボードの深尾さんとドラムの工藤さん。
「何?千尋のお友達?……って美形ばっか…おいしいな…」
「岳斗、誰?」
尚先輩がテーブルの向かいから顔を出して聞いてきた。
「エール・ダンジュのキーボードの…」
「ああ!」
「…なんで深尾がいるんだ…?」
千尋先輩が深尾さんと工藤さんに驚いたような顔をしていた。
「クリスマスデート中ですけど?たまには若い演奏聴くのもいいかと思って!」
深尾さんに対しての苦手意識は相変わらずで、どうしても岳斗は逃げ腰になってしまう。
テーマ : 自作BL小説
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