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熱視線 終幕~フィナーレ~3

 いよいよ本番。
 怜さんの控え室に一緒にいる。
 始めはオケだけでベートーベンの交響曲だ。
 調子はいいようだけどはたして明羅の時はどうなのか。
 怜さんだけよくても仕方ないのだ。
 「……俺もう協奏曲作んない!」
 「どうした?」
 怜はすでに燕尾服に着替え髪も上げている。
 「だって!怜さんよくてもオケがダメだとダメなんだもんっ」
 「じゃ、今日よかったら…?」
 「……ぅ…分かんない。じゃ、聴いてから決める」
 よしよしと怜が明羅の頭を撫でた。
 「ん~、俺は気楽かも。ステージに一人じゃないってのが」
 「そうなの?」
 「そう、いっつも孤独だから」
 明羅は思わず黙った。
 広いステージにピアノがぽつんと演奏家が一人。
 失敗も成功も確かに全部自分ひとりのものだ。
 明羅は怜に抱きついた。
 その明羅の髪を怜が撫でる。
 「最近よく甘えて来るな」
 「……だめ?」
 「いや。いい」
 明羅の髪に怜がキスする。
 「あとは可愛く、して?って言ってくれれば」
 「………そ、れは…」
 まだ明羅から怜にねだったことはなかった。
 恥かしくていえる筈がない。
 「ま、そのうちにね」
 「……ん…でも、俺、…言う前に怜さん…」
 「あ、ごめん。だって我慢出来ないから」
 くくっと怜が笑った。
 「じゃ、行って来る。明羅は客席で見ておいで」
 「ん」
 軽くキスして怜を見送り明羅は客席に向かった。

 宗は今回は大学の入学式が明日で来られなくて、怜のお父さんは来てた。
 そっと客席に座る。
 前の演奏会の時とはドキドキの種類が全然違う。
 不安はオケだ。
 オケだけの演奏が終わる。次は明羅のピアノ協奏曲だ。
 観客は世界でも有名なオケと父に満足そうだけど、明羅はリハを知っているから落ち着かない。
 明羅はじっと壇上を見つめた。
 怜が入ってくる。
 ピアノに座って、手はまだ膝だ。
 父の指揮棒が上を向く。


 息を飲んだ。
 

 がん、と音が響いてきた。
 ピアノでは出せない音。
 リハとは比べ物にならない音。
 父の指揮棒に合わせ、明羅の求めた音が出せていた。
 そして怜のピアノが入ってくる。
 ピアノとオケが揃っている。
 バランスもいい。
 お父さんは分かってると言ったけど、やっぱりすごい。


 焦燥感。不安。
 ピアノとオケの掛け合い。
 そしてフィナーレ。
 …指輪。
 明羅は首に下がっている指輪を服の上から握り締めた。
 指輪をもらってからも明羅の誕生日があったり卒業式があったり、その度に怜はいてくれた。
 見事な一体感で演奏が華やかに、壮大に明羅に感動が広がっていく。
 自分の身体を抱きしめた。
 怜の音が明羅を抱きしめてくれるようだ。
 曲は明羅だ。それを奏でるのが怜なのだ。
 

 「明羅くん」
 怜のお父さんが明羅の肩を叩いた。
 「え?」
 「呼んでるよ?」
 怜のお父さんがステージを指した。
 そっちを見ると明羅の父が明羅を呼んでいた。
 「行っておいで」
 明羅は怜を見た。
 怜の目がおいで、と誘っている。
 ふらふらと明羅はステージに上がると、団員に歓声で迎えられた。
 怜が明羅の背を押して父の前に押し出す。
 父は明羅を客席に紹介して、明羅は頭を下げた。
 そして明羅は観客にも大きな歓声で迎えられた。 


 夢みたいな時間だった。
 まだぼうっとしている。
 怜の控え室に一緒にいて、明羅は椅子に座ってぼうっとしていた。
 「明羅?」
 「ん~~?」
 「大丈夫?」
 「ん」
 怜が着替えをしながら笑っていた。
 「よかったみたいね?」
 「…ん」
 怜はそれ以上何も言わずにただ一緒に黙っていた。
 
 
 「オケの団員の所に挨拶に行くけど、一緒に行く?」
 「行くっ」
 しばらく経った後怜に声をかけられて明羅はすくっと立ち上がった。
 怜と一緒に団員に挨拶にいくと二人は囲まれた。
 早くこっちに来いとか、色々言われる。
 始めは馬鹿にされていたのが嘘のような対応だった。
 途中から何故か怜が面白くなさそうな顔をしていたのが気になったけど。
 最後にお父さんの所に挨拶に怜と一緒に行った。
 「ありがとうございました」
 明羅が頭をさげ、怜も同じく頭を下げる。
 「満足だったかな?」
 「はい!」
 明羅が笑みを浮べた。
 「ああ、よかったよ。明羅からダメだしがきたら眼も当てられない。明羅がよかったなら成功だな。今日の演奏録音してるからあとでいるかい?」
 「いるっ!ちょうだい!」
 明羅が即答した。
 「怜君もお疲れ様。とてもよかったよ」
 怜と父が握手している。
 明羅はそれを面映い気持ちで眺めた。
 
 

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